シンポジウム「シリア復興と文化遺産」
発表を行うユーセフ・カンジョ博士
「アラブの春」に端を発した中近東諸国における民主化運動はアラブ世界に大きな変化をもたらしました。シリアにおいても2011年4月に大規模な民主化要求運動が発生し、そのうねりはとどまることを知らず、現在では事実上の内戦状態となっています。シリア国内の死者はすでに10万人を超え、多くの国民が難民となることを余儀なくされ、隣国に逃れる中、対立は激しさを増しており、いまだに出口が見えない状況です。
内戦が繰り広げられる中で、文化遺産の破壊もまた世界的なニュースとして大きく取り上げられています。とくに、風光明媚な古都として知られているシリア第2の都市アレッポでは激しい戦闘が行われ、世界遺産に登録されている歴史的なスークが炎上し、アレッポ城が損壊を受けるなど、文化遺産が重大な危機に曝されています。これを受けて、ユネスコ世界遺産委員会は、2013年6月20日、内戦が続いているシリア国内にある6つの世界遺産のすべてを「危機遺産」に登録しました。
このような状況を踏まえ、東京文化財研究所は、日本西アジア考古学会の後援を受け、さる10月31日にシンポジウム「シリア復興と文化遺産」を主催しました。
シンポジウムでは、現アレッポ博物館館長であるユーセフ・カンジョ博士を含む9名の専門家が、「シリア内戦の現状と行方」、「シリアの歴史と文化遺産」、「シリア内戦による文化遺産の破壊状況」、「文化遺産の復興と国の復興」に関して発表を行い、その後、パネル・デスカッションにおいて、「現在そして今後、シリアの文化遺産復興に関して何をなすべきなのか」を活発に議論しました。