アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査

図1 危険個所調査
図2 トレンチの発掘と確認された溝状遺構(SfMにより作成)

 東京文化財研究所では、アンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)によるタネイ遺跡保存整備計画策定に技術協力しています。平成29(2017)年7月16‐30日にかけて、考古発掘調査および建造物の危険個所調査を同遺跡において実施しました(図1)。
 今回の発掘調査は寺院正面である東参道の遺構確認を主目的とし、奈良文化財研究所の協力を得ながら、APSARA機構のスタッフと共同で行いました。事前に外周壁東門から東方の東バライ貯水池土手にかけての延長100m余の範囲で下草・灌木類を伐採したところ、同土手上面にラテライト造のテラス状構造物が存在することが初めて確認され、ここを起点に東門に至る参道の存在が強く推定されました。
 まず東門の東方約12mの位置に東西2m×南北10mのトレンチを設定し発掘を実施したところ(図2)、現地表下50cmで東西方向に走る溝状の遺構が確認されました。溝状遺構は幅2m程度で、溝内には無数の細かいラテライト粒(直径1cm~5mm)が充填されており、参道の可能性が考えられました。また、溝状遺構の両脇には、こぶし大ほどの砂岩礫が敷き詰められていました。
 また、この溝状遺構の続きを検出することと当初の地表面を確認することを目的に、東門に沿う形で東西2m、南北2.5mのトレンチを設定し掘り下げました。このトレンチでは、現地表下50cmのところで、砂岩礫が敷かれた面が全面に広がり、溝状遺構を確認することはできませんでした。
 東参道のさらに詳しい様相と新たに発見されたテラス状遺構の全容を把握するため、11月にも現地調査を再度行う予定です。
 一方、本遺跡はアンコールの他遺跡に比べて人手が加わっていない廃墟的景観が大きな魅力となっている一方で、これ以上の崩壊を防ぐことが来訪者の安全面からも求められています。このため、伽藍全体の構造学的リスク評価に基づいて支保工等を計画的に設置・更新することが急がれます。SfM1)写真測量技術による立面図の作成と危険個所のチェック作業を中軸線上の主要建物から順に実施することとし、手始めに2棟を対象にその作業手順の確立に努めました。この作業はAPSARA機構のスタッフが引き続き実施中です。
 周辺環境も含めた遺跡の良好な保存を図ると同時に、現地を訪れた人々がその意味と価値をより良く理解できるようにするため、学術的な解明と有効な保存整備の実現に向け、さらに協力を深めていきたいと思います。
註1 SfMとは「Structure from Motion」の略で、地形や遺跡、遺構などをデジタル・カメラで多方向から撮影し3Dモデルを作成する技術のことです。

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