研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
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ウェブサイト「美術工芸品修理のための用具・原材料と生産技術の保護・育成等促進事業」での「文化財(美術工芸品)の修理記録データベース」の公開

文化財(美術工芸品)の修理記録データベース
本データベースの典拠資料および資料ごとの修理記録の年幅

 東京文化財研究所は、令和4(2022)年度より文化庁が進める「文化財の匠プロジェクト」の一環である「美術工芸品修理のための用具・原材料と生産技術の保護・育成等促進事業」に携わっています。このたび令和7(2025)年4月に本事業のウェブサイトを開設し、美術工芸品修理のために必要とされる用具・原材料についての記録映像、科学調査成果、修理記録データベースを公開しています(https://www.tobunken.go.jp/conservation-arts-crafts/)。

 近年、文化財の修理記録という大切な情報を適切な形で後世に残していくことが広く求められています。修理記録は、作品の状態、材料、構造などにかかわる情報の次世代への継承を可能にするのみならず、文化財の管理や保護にとっても重要な情報源となります。しかし、国指定文化財のうち、美術工芸品分野に関しては、明治30(1897)年に制定された古社寺保存法以来の修理記録を全体的に包括する報告書やデータベースなどは存在していませんでした。また、各所で作成された修理報告書についても、記述の内容や方式が統一されておらず、情報共有に課題がありました。そのため、現在、美術工芸品分野の文化財修理にかかわる情報を集約し、一元的に管理するためのプラットフォーム構築の必要性が高まっています。

 本事業の成果のひとつが、「文化財(美術工芸品)の修理記録データベース」の試作版(https://www.tobunken.go.jp/conservation-arts-crafts/records-archives)の作成と公開です。本データベースには、文化庁、修理施設のある国立博物館、全国の修理工房、その他の関連組織によって刊行された修理報告書に所収の修理情報を順次追加していく予定です。本データベースを文化財の修理や管理、修理情報の継承、研究利用等の幅広い目的でご活用いただけましたら幸いです。また、調査にあたって得られた成果は、報告会や研究会等を通じて随時発信してまいります。

行政機関で作成された映像資料とその関連資料の管理と利用可能性―令和6年度第2回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 米国ワシントンD.C.にある国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration)は、歴史的価値を有する国の記録史料の保存と管理を担うナショナル・アーカイブズです。昭和9(1934)年に設立された同館は、「独立宣言」「合衆国憲法」「権利章典」という、いわゆる「自由の憲章」のほか、外交文書、戦争関係文書、移民記録、従軍記録など、国の「記憶」となる史料を保管しています。収蔵資料は、135億枚の文書、4億5千万フィート以上のフィルム、4千100万枚の写真、4千万枚の空中写真、1千万枚の地図や建築技術図面、837テラバイトに及ぶ電子記録など、非常に多様である点に特徴があります(令和5〔2023〕年10月時点)。
 同館では、映像資料それ自体(映画フィルムやビデオ等)とともに、長年にわたり、これらの制作過程が記録された関連資料の移管も受入れてきました。令和6(2024)年5月14日に開催された文化財情報資料部研究会では、令和4(2022)年8月に実施したこれら関連資料の現地調査成果について、文化財情報資料部アソシエイトフェロー・山永尚美が「行政機関で作成された映像資料とその関連資料の管理と利用可能性について」と題して報告を行いました。
 同館アーキビストへの照会を通じて得られた文書記録シリーズ登録簿(Textual records series register, 1990)の情報によると、特殊メディア(Special Media)を扱う新館(ArchivesⅡ)にはシリーズ単位で約300に及ぶ関連資料の所蔵があり、近年はそのデジタル化も進められていました。プロダクション・ファイル、台本、書簡、索引カード、インタビューの文字起こしなど、多岐にわたる関連資料の内容について撮影写真も交えて報告し、その後の質疑応答では、制作活動に伴って生みだされる記録の保存や管理の必要性について様々に意見が交わされました。この議論をもとに、作品や文化財の文脈を保証する記録の保存に貢献すべく、引きつづき検討を重ねてまいります。

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