研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


国際シンポジウム「世界遺産としてのシルクロード―日本による文化遺産国際協力の軌跡―」を開催

講演の様子
パネルディスカッションの様子

 文化遺産国際協力コンソーシアムは9月27日、イイノホールにて国際シンポジウム「世界遺産としてのシルクロード―日本による文化遺産国際協力の軌跡―」(文化庁と共催)を開催いたしました。本会では今年6月に世界遺産に登録された「シルクロード:長安-天山回廊の道路網」に関連し、これまでの日本による支援や今回の登録の意義、ならびにシルクロードと日本の関係をテーマとして取り上げました。
 シンポジウム前半ではまず、文化遺産国際協力センター地域環境研究室長の山内和也より、「シルクロード世界遺産登録への日本の貢献」と題し、基調講演を行ないました。さらに中国より新疆ウイグル自治区トルファン地区文物局の王霄飛氏、カザフスタンより考古学エキスパタイズのドミトリイ・ヴォヤーキン氏をお迎えし、各国の世界遺産登録に向けての取組みや構成資産についてご講演頂きました。後半のパネルディスカッションでは、パネリストにシルクロード関連の専門家4名(大東文化大学・藏中しのぶ氏、奈良県立橿原考古学研究所・西藤清秀氏、東大寺・森本公誠長老、京都大学・吉田豊氏)をお迎えし、当コンソーシアム副会長の前田耕作による司会で「シルクロードと日本」と題し、各ご専門分野の立場からシルクロードと日本のつながりについてお話頂きました。
 今回は300名の参加者があり、シルクロードの世界遺産登録に日本が多大な貢献をしてきたことを多くの方に知っていただく機会となりました。

第15回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「文化遺産管理における住民参加」の開催

講演の様子

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、6月26日、27日の2日間にわたり、国立民族学博物館との共催で東京文化財研究所セミナー室、大阪国際交流センター小ホールにて標記研究会を実施いたしました。
 近年文化遺産と観光開発の共存を推進する上で、住民参加型の文化遺産管理を主張する動きが地域、国家、国際レベルで見られますが、実践としてなかなかうまく機能しないことが問題視されています。このような現状に鑑み、改めて文化遺産管理における地域住民の役割や可能性について議論するため、今回「文化遺産における住民参加」というテーマを取り上げました。
 講演では当コンソーシアムの関雄二副会長・中南米分科会長による趣旨説明、問題提起の後、北海道大学観光学高等研究センター長の西山徳明氏(ペルー)、同センター特任准教授の八百板季穂氏(フィジー、ペルー)、公益財団法人文化財建造物保存技術協会の益田兼房氏(ミクロネシア)およびイーストアングリア大学日本美術・文化遺産准教授の松田陽氏(イタリア、英国)の4名の専門家から、それぞれ地域住民を巻き込む形での文化遺産のマネジメントの実態について事例報告いただきました。
 講演後のパネルディスカッションでは、講演で取り上げた事例と会場からの質問内容をふまえ、住民参加の理念の問題、実践における課題や国際協力の観点からの可能性について等、活発に議論が行なわれました。2日間で約130名の方にご参加いただき、文化遺産管理に携わるあらゆる立場から質問や意見が寄せられ、本テーマに対する関心の高さを窺い知ることができました。

スリランカにおける内戦後の博物館および文化遺産の現状調査

ジャフナ考古博物館での調査
考古局トリンコマリー事務所での意見交換

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2月と5月の2度にわたり、国際交流基金の文化協力プログラム「スリランカにおける内戦後の博物館および文化遺産の現状調査」(事業参加者:東京国立博物館学芸企画部企画課長・小泉惠英氏、龍谷大学国際文化学部准教授・福山泰子氏)の調査支援を行ないました。本事業は2012年度の当コンソーシアムによる協力相手国調査にもとづき実施されたもので、スリランカ考古局協力のもと、1983年から2009年まで26年にわたる内戦の影響を受けた北部(ジャフナ地区)と東北部(トリンコマリー地区)の博物館を中心に、展示品、収蔵品の調査や文化財保存に関する情報収集を行ない、内戦終結後の文化財保存と活用の今後の方針について協議しました。
 スリランカではここ数年、考古局が中心となり、内戦の影響を受けた地域の復興に向け、その地域の特性を考慮した文化施設の設置や文化財を活用した地域開発の動きがみられます。ジャフナは仏教、ヒンドゥー教、キリスト教の信仰の足跡をたどることができるというスリランカ国内でもユニークな地であるばかりでなく、各植民地時代の建造物が残るなど多様な文化遺産が現存しています。トリンコマリーは数多い仏教遺跡のほか、海事や対外貿易の拠点としての歴史も有しています。これらを国内外にアピールするため、いずれの地区においても歴史的建造物を再利用した博物館や文化複合施設の設立計画がすすめられています。一方、現存する博物館では文化財の管理、展示の方法や人材の面などで多くの課題を抱えており、参加者は現地の職員と意見交換をしながら展示プランや管理方法について指導・助言を行ないました。
 内戦終結地域の文化財を活かした地域開発は、まだ始まったばかりで考古局は専門家の派遣、人材育成や資金の面で外国の支援を必要としています。今後も継続して各地域の復興の手助けになるような協力の可能性を探っていければと考えています。

文化遺産国際協力コンソーシアム平成25年度総会および第14回研究会「文化遺産保護の国際動向」の開催

講演風景

 2014年3月7日(金)に標記総会および研究会を開催しました。総会では、例年通り、コンソーシアムの平成25年度事業報告と平成26年度事業計画を事務局長より報告しました。続いて行った研究会では、国際交流基金理事長の安藤裕康氏による「文化を通じる国際協力と交流―双方向性に向けて」と題する基調講演ののち、文化遺産保護に関する最新の国際動向について、昨年開催された各分野の国際会議での議論を中心に、4名の方にご報告いただきました。
 まず、文化庁主任文化財調査官の本中眞氏より、富士山の世界遺産登録を事例に、登録に至るまでの審議の過程や世界遺産登録後の課題についてお話しいただきました。続いて企画情報部情報システム研究室長の二神葉子より、ユネスコ無形文化遺産保護条約第8回政府間委員会での審議内容についての報告とともに、委員会で議論となった事項や最近の同条約をめぐる問題についての発表がありました。 さらに、国立文化財機構本部の栗原祐司事務局長にご登壇いただき、ICOM大会招致に向けて、ICOM日本委員会が行っている活動や今後の見通しなどについてご発表いただきました。 最後に、コンソーシアムの前田耕作副会長より昨年イタリアのオルビエトで開催された第12回バーミヤン専門家会議での議論に関するご発表がありました。
 今回は約100名のかたの参加がありました。コンソーシアムでは例年同様のテーマの研究会を開催しておりますが、参加者のみなさまには文化遺産保護をめぐる最新の国際動向について情報共有し、意見交換していただく場として活用していただいております。今後も、研究会等を通じた情報共有に取り組んでいきたいと思います。

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