ICOMOS Scientific Symposium 2025への参加およびキルティプル市における歴史的民家の保存活用に向けた共同調査 その5
令和7(2025)年10月15~19日にかけ、ネパール・ルンビニ仏教大学でICOMOS Scientific Symposium 2025が開催され、文化遺産国際協力センターより淺田が参加しました。
ネパールでは、令和7(2025)年9月、政府に対する抗議デモが過激化し、政府庁舎や外資系の高級ホテル等が放火されるなど、一時的に政情不安が高まっていました。しかし、暫定政権の発足により事態が早期に沈静化したことを受けて、ICOMOS総会とシンポジウムは予定通りネパールで開催されることとなりました。
ICOMOS Scientific Symposium 2025は、紛争(Conflict)、災害(Disaster)、平和(Peace)と、大きく3つのサブテーマによってセッションが構成され、各国からの参加者が発表を行いました。紛争のセッションでは、現在、紛争が進行している当事国から発表があり、深刻な被害の実態が報告されました。また、本年はネパール・ゴルカ地震の発生からちょうど10年という節目の年でもあり、ゴルカ地震の震災復興に関するイベントもカトマンズで開催されました。文化遺産を取り巻く課題が拡大、複雑化しているなか、自分たちのコミュニティの中だけで解決できない問題を抱える地域にとって、このような国際的な専門家の交流の場があることの重要性が、強く印象付けられました。
また、今回の渡航に合わせて、キルティプル市における歴史的民家の保存活用に向けた共同調査に関する協議も行いました。この共同調査は、キルティプル旧市街に残る歴史的民家の保存に向けたプロセスの構築を目的とするもので、これまでにパイロットケーススタディとしての民家調査や、旧市街に残る歴史的民家の簡易悉皆調査などを行っています。キルティプルにおいても、9月の抗議デモで市庁舎が放火され、さらに庁舎の備品が強奪の対象となるなどの被害がありました。行政が通常の機能を取り戻すまでにはまだまだ時間がかかることが想定され、政治的に不安定な状況の中で何ができるのか、市や調査メンバー、地元コミュニティも交えて話し合いました。一方で、これまでの調査を通じて歴史的民家の保存に志を持つネパール人専門家の協力の輪も広がりつつあります。行政支援を待つのではなく、自分たちでできることから始めようという、新たなネットワークの胎動も感じられます。
