南九州市、旧陸軍青戸飛行場に残るトーチカのコンクリート材料に関する現地調査

旧青戸飛行場に残るトーチカ。後ろには開聞岳が見える。
トーチカに混入するサンゴ(今回の調査で発見されたもの)
踏査の様子

 東京文化財研究所保存科学研究センター修復技術研究室では、南九州市との共同研究の一環として、同市内に残るアジア・太平洋戦争期のコンクリート構造物の保存に向けた調査を行っています。その中で、旧青戸飛行場に残る2基のトーチカについては築造時の記録がほとんど知られておらず、誰がいつ、何の目的で作ったのか、どんな材料が用いられ、それらはどこで調達されたのか、といったように分かっていない点が多くあります。
 令和7(2025)年9月、トーチカのコンクリート材料調達の一端を明らかにすべく、南九州市文化財課の坂元恒太氏、知覧特攻平和会館の八巻聡氏、神奈川県立生命の星・地球博物館の田口公則氏とともに現地調査を行いました。これまでの調査で、トーチカのコンクリートには、海棲と考えられる貝の破片、海岸で見られるような周囲がすり減った陶磁器やガラスの破片が混ざっていることが明らかでした。このことから、コンクリートを作る際に必要となる砂を近隣の海岸の砂浜から採取し、その際に貝殻、陶磁器破片やガラス破片が混入したものと推測していました。加えて、この度の田口氏の観察により、トーチカのコンクリートには1〜2mm程度の黒色砂や緑色透明のかんらん石(オリビン)の砂、そして珊瑚の破片が複数混入していることも判明しました。これらの組み合わせは開聞岳周辺の海岸で見られる堆積物との共通性が高かったため、この情報を新たな手がかりとして、近隣の海岸や河口を踏査しました。
 踏査の結果、開聞岳から北西に10kmほどに位置する浜で、トーチカに含まれる砂、貝や珊瑚、陶磁器、ガラスといった組み合わせと、よく似た構成の砂礫を確認することができました。またその場所はトーチカのある青戸飛行場と海岸とをつなぐ路線(石垣・喜入線 大正6〔1917〕年開通)があり、距離も5km程度と材料の調達・運搬に適していた場所であることも判明しました。
 現在、これまでの調査結果も踏まえながらこの度の調査結果を整理しており、近日中に報告書として刊行する予定です。

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