タジキスタン共和国出土初期イスラームの壁画の保存修復
壁画断片の接合部の形状確認作業(タジキスタン、フルブック遺跡出土)
9月19日から10月14日まで、タジキスタン国立古代博物館においてフルブック遺跡出土の壁画断片の保存修復作業を実施しました。この壁画断片は、初期イスラーム時代に製作されたと推定されており、類例が少ないため、同国の歴史に関わる貴重な学術資料のひとつです。当研究所では、2010年度よりこの壁画断片の本格的な保存修復を実施しています。
壁画は断片化した状態で発掘されており、処置の開始時には彩色層および下塗りの石膏層が著しく脆弱化した状態でした。昨年度までに、彩色表面の強化、細かく割れた小断片の接合、裏打ちなどの処置を行いました。今年度は、よりいっそうの断片の構造的な安定化を目指し、壁画断片の背面に土壁を模した擬似土を接着しました。また、この処置によりこれまで不均一であった断片の厚さをほぼ一定にすることができ、表面の高さを合わせることが可能になりました。さらに、断片の欠損個所や接合箇所には充填を行い、全体のバランスを見ながら充填箇所の色合わせを行うことにより、図像が見やすくなりました。今後は、タジキスタン国立古代博物館において安全に展示する方法を検討していく予定です。
なお、本修復事業の一部は、住友財団「海外の文化財維持・修復事業」の助成により実施しています。