企画情報部研究会の開催―徳川吉宗が先導した視覚と図像の更新について―

『古画備考』巻二十六 岡本善悦肖像 (東京藝術大学附属図書館所蔵)

 11月24日(火)、企画情報部では、加藤弘子氏(日本学術振興会特別研究員)を招いて「徳川吉宗が先導した視覚と図像の更新について―岡本善悦豊久の役割を中心に―」と題した研究発表がおこなわれました。
 江戸幕府の第8代将軍である徳川吉宗(1684~1751)は、革新と復古の両面を兼ね備えた政治家として著名ですが、美術の分野でも、中国の宋・元・明の名画の模写やオランダ絵画を輸入させ、また、諸大名が所蔵する古画の模写や珍獣の写生を命じたことが確認されます。そうした古画の模写や写生をおこなった画家として挙げられるのが、同朋格として吉宗に仕えた岡本善悦豊久(1689~1767)です。加藤氏は、東京国立博物館が所蔵する「板谷家絵画資料」の中に、善悦の末裔にあたる彦根家旧蔵の約270点の粉本類が含まれることを紹介し、それらの存在から、善悦が吉宗の意向を狩野家や住吉家に伝え、視覚と図像を指導していく役割を果たした可能性を指摘されました。こうした問題は、吉宗の絵画観を解明するとともに、善悦を通して吉宗の絵画観が粉本として蓄積され、その後の狩野派の画風などに影響を与えたことを示唆するものでもあります。発表後は、善悦の役割とともに、善悦と同じく吉宗の側近であった成島道筑との関係などについても活発な意見が交わされました。今後は、実際の絵画作品が少ない善悦の、さらなる作品紹介などが待たれます。

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