スタッコ装飾及び塑像に関する研究調査(その8)

聖ザノビウス像
X線による撮影

 文化遺産国際協力センターでは、令和3(2021)年度より、運営費交付金事業「文化遺産の保存修復技術に係る国際的研究」において、スタッコ装飾及び塑像に関する研究調査に取り組んでいます。
 令和7(2025)年11月8日から11月12日にかけてイタリア・フィレンツェを訪れ、ルネサンス後期、マニエリスムの彫刻家ピエトロ・フランカヴィッラやアントニオ・ディ・アンニバレ・マルキッシによる塑像群を対象とした調査と成果報告会を実施しました。これらの彫刻群は、1589年にトスカーナ大公フェルナンド1世デ・メディチとクリスティーヌ・ディ・ロレーヌの婚礼を祝うため、フィレンツェ大聖堂に設置された仮設ファサードを飾る構成要素として制作されたものです。仮設ファサードの撤去後、しばらくの間大聖堂内部の身廊壁際に配置されていましたが、19世紀にクーポラの北東部の屋根裏空間へと移され、現在は、オペラ・ディ・サンタ・マリア・デル・フィオーレの管理下に置かれています。
 今回の成果報告会では、これまでに実施した非破壊調査 −可視光・赤外線・紫外線による写真記録撮影、X線撮影、ファイバースコープ探査、三次元計測など− によって得られた知見を研究チーム内で共有しました。その結果、粘土を主体とした多層構造や、部材のモジュール化を前提とした設計といった、構造上の特徴を捉えることができました。また、表層の仕上げや金箔装飾の痕跡も確認され、像の制作工程に関わる重要な手がかりも得られつつあります。今後は、非破壊手法では把握が困難な詳細情報を収集するため、適切な倫理基準と保存科学上の配慮のもとでサンプリングを伴う微破壊調査へと段階的に移行し、構造的特質と劣化要因との相関を解明するとともに、適切な保存修復方針の策定に寄与していく予定です。
 さらに、本研究は、地域や時代を超えて受け継がれてきたスタッコ装飾および塑像文化の普遍性と、その技術的展開の多様性を解明することも目的としています。美術史、保存修復学、材料科学、文化財学といった領域を横断する学際的研究である以上、国際的な知見の共有と協働は欠かせません。今後も各国の専門家との連携をいっそう強化し、学際的な対話を深めながら、着実に研究を進めていきたいと考えています。

to page top