聖ミカエル教会(ケシュリク修道院)での保存修復共同研究(その2)

壁画のクリーニング前後の様子
作業風景
クリーニング後のアプシス

 文化遺産国際協力センターでは、トルコ共和国のカッパドキアに位置する聖ミカエル教会(ケシュリク修道院内)を対象に、トルコ国内外の専門機関や大学と協力しながら内壁に描かれた壁画の保存修復に関する共同研究事業を進めています。

 令和7(2025)年6月21日から7月15日にかけて現地調査を実施し、前年度の実地研究に基づいて策定した保存修復計画に従い、教会建築におけるアプシスを中心とした壁面のクリーニング作業および、身廊(しんろう)部分における剥落の危険性が高い漆喰層の補強処置を行いました。この教会の壁画は、100年以上にわたり厚い煤(すす)に覆われ、その全貌を目にした者はいません。今回のクリーニングにより、長年にわたり堆積した煤汚れを安全かつ慎重に除去した結果、壁画本来の色彩や細部の描写が鮮明に浮かび上がりました。これにより、当初の意匠や制作技法について詳細な検証が可能となり、壁画の制作年代や様式的特徴に関する新たな知見が得られました。なかでも、本研究を通じて体系化された保存修復の技術的アプローチが、実地作業を通じてその有効性を実証した点は、学術的・実務的に極めて意義深い成果であるといるでしょう。

 本共同研究は、東京文化財研究所を中核機関とし、トルコ国内外の専門機関および大学との連携のもとに推進されている国際的な保存修復プロジェクトです。今回の作業においては、壁画の保存修復過程における状態把握を目的として、保存科学的手法や三次元計測技術を導入し、対象を科学的・物理的側面から多角的に検証しました。このように、複数の視点から対象を精緻に把握しつつ、壁画の特性に即した保存修復方法の確立を目指す本プロジェクトの取り組みは、トルコ国内においても前例のない先駆的事例として高く評価されており、大きな注目を集めています。今後も、こうした期待に応えるべく、文化財の保存と活用に資する有意義な活動を継続的に展開していきたいと思います。

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