研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


秋田県仙北市における茅葺き技術の調査

作業用の木製足場の組立(A家)
差し茅を行う職人(B家)

 10月中旬、秋田県仙北市で茅葺き技術の調査を行ないました。茅葺きはススキ、ヨシ、カリヤス等の植物材によって葺かれた屋根の総称で、民家や寺社建築の伝統的形態のひとつです。高度経済成長期以降、茅葺き屋根をめぐる技術・景観・文化は急速に失われており、高齢化にともなう職人の減少や茅材料の不足が衰退に拍車をかけています。
 調査では茅葺き職人の後継者育成や技術の記録保存等の事業を行っている「秋田茅葺き文化継承委員会」の案内により、職人への聞き取りと技術の実地調査を行ないました。茅葺き屋根を維持する技術には、大きくわけて「葺き替え」(茅を全面的に葺き替える技法)と「差し茅(さしがや)」(痛んだ茅を差し替える技法)がありますが、秋田を含む東北日本海側の茅屋根はそのほとんどが「差し茅」によって維持されるという点で、全国的にみても特徴的です。
 研究では差し茅技術の特徴を調査・記録していくと共に、これをひとつの民俗技術と捉え、その文化的意義を明らかにしていきたいと考えています。

日韓無形文化遺産研究会の開催

ロビー展示「無形文化遺産の記録」展示を前に議論する日韓の研究員

 無形文化遺産部では、近年の世界的な無形文化遺産保護の気運の高まりに応じて、アジア地域を中心とした各国の関係機関との国際的な調査研究協力を積極的に進めています。その一環として、2008年には韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間に「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」合意書を交わし、以後3年間にわたって国際研究交流を行なってきました。その研究交流の集大成として、8月9日、東京文化財研究所にて日韓無形文化遺産研究会が行なわれました。韓国から6名の研究者が来日して参加し、韓国側の発表者3名を含む6名が、無形文化遺産に関する研究発表を行ないました。また、研究会の後には今後の研究交流についての協議が行なわれ、2012年から五か年計画で、引き続き交流を行なうことが合意されました。

山口県下松市米川地区の莚織り技術調査

座談会形式で村の方々に昭和20年代の暮らしについてお聞きしました

 7月4日~5日の二日間、下松市米川地区(旧米川村)の西平谷にて莚(むしろ)織り技術の調査を行ないました。西平谷は西谷・平谷から成る谷筋の山間集落ですが、昭和30年以降、沿岸市街地への転出が一気に進み、現在では両村合わせて10戸に満たないほどに過疎化が進行しています。この地域で、地域おこしの一環として、地元有志を中心に莚織りの技術を復活させようとする活動が昨年度から行なわれてきました。莚は古くより日本の百姓の暮らしのなかでごく当たり前に見られた民具であり、その技術もすでに近世から日本列島でほぼ共通しています。しかし当たり前であるからこそ、その技術がきちんと記録されることはほとんどありませんでした。西平谷の莚は自家用に織り継がれてきたものであるために、最も単純な道具を用いた技術であり、莚織り技術のより古い形を保存していると考えられます。調査研究では地元有志をお手伝いする形で莚織り技術を復元し、記録・伝承するとともに、莚という民具の背景にある村の暮らしや環境を掘り起し、記録することを目指しています。

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