近代コレクター原六郎の知られざるコレクション―令和5年度第11回文化財情報資料部研究会の開催


明治時代を代表するコレクターのひとりに原六郎(1842~1933)がおります。原六郎は但馬国(現在の兵庫県)に生まれ、維新活動の功によって鳥取藩士となり、明治政府の援助でアメリカへ留学、さらにイギリスにて銀行学を修めました。帰国後、銀行家として名を成し、公共事業に尽力しました。そのかたわらで古美術を保護し蒐集活動を行いました。その優れたコレクションの大部分は原家が保持し、昭和52(1977)年に公益財団法人アルカンシエール美術財団が設立され現在にいたっています。
財団に寄贈された原家のコレクションは今日、現代アートを主軸として原美術館ARC(群馬県)にて展観されています。現代アートの公開は昭和54(1979)年に原家私邸を改修して開館した原美術館(東京都品川区)にはじまります。惜しくも令和3年(2021)に品川の原美術館が閉館されることとなり、これにともなって同地にのこされていた文化財の再調査が行われました。このとき発見された作品は100件以上にのぼり、それら新出作例は財団へ寄贈されました。
このたび新出作例のうち旧日光院客殿障壁画関連作例「野馬図」二幅について調査する機会をいただき、令和6(2024)年3月26日に開催された文化財情報資料部研究会にて、東京国立博物館アソシエイトフェロー・小野美香氏が「原六郎コレクションの新たな展開―三井寺旧日光院客殿障壁画研究を契機として―」と題して同コレクションの概要と今後の展望について報告しました。つづいて文化財情報資料部日本東洋美術史研究室長・小野真由美が「新出の野馬図について―旧日光院客殿障壁画との関連から―」と題して同図の造形的特徴について報告しました。質疑応答では障壁画の配置や作者の比定などについて議論されるとともに、原六郎コレクションについても高い関心が寄せられました。これを契機として、同コレクション全体を俯瞰し、原六郎とその古美術保護の意義をふまえた新たな学術調査へと展開していければと考えています。