研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第12回太平洋芸術祭「第1回カヌーサミット」の開催

カヌーサミットの様子
カヌーの実演航海

 東京文化財研究所は文化庁委託事業「文化遺産国際拠点交流事業」の一環として、グアムでおこなわれた第12回太平洋芸術祭において、第1回「カヌーサミット」を2016年(平成28年)5月26日に開催しました。
 太平洋芸術祭は、太平洋地域の文化に関わる芸術家や専門家、コミュニティーの代表者を招いて4年に1度おこなわれるイベントで、今年は27の国・地域が参加し、約2週間の開催期間中には、太平洋地域の文化が抱える様々な課題についての会議、各地域の伝統舞踊や民族技術の実演が催されました。
 その中で「カヌーサミット」は、UNESCOと太平洋芸術祭事務局の協力の元、南山大学、Traditional Arts Committee, Guam、Tatasi Subcommittee, Guam、東京文化財研究所との共同で開催され、メラネシア・ポリネシア・ミクロネシアの各地域においてカヌー文化の保存と活用に携わる専門家や航海士らが一堂に会し、伝統的な航海術や、文化復興への取り組みについての紹介や議論が行われました。参加者は100余名におよびました。
 カヌー文化は、大洋州島しょ国の文化的象徴であり、無形文化遺産としても重要な価値を持っています。また近年では、二酸化炭素の排出が少ない「持続的な移動手段」としての再評価もおこなわれています。しかしながら、気候変動による災害やグローバリゼーションの影響から、こうした伝統文化をいかに保護し、若い世代へ継承していくかということが課題となっています。
 参加者からは、今回のサミットの開催は、各地で行われているカヌー文化の復興運動についての情報共有をおこなう大変貴重な機会であり、カヌー文化の次世代への継承のための歴史的に非常に有意義な次へのステップとなったとの感想を聞くことができました。

ネパールにおける文化遺産被災状況調査

考古局との打ち合わせ
調査風景
ブンガドヤジャトラ祭の様子

 2015年4月25日、ネパール中部を震源とするマグニチュード7.8の地震が発生し、首都カトマンズを含む広範な地域で文化遺産にも大きな被害が生じました。
 東京文化財研究所は文化庁より「文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)」の委託を受け、9月14日から28日にかけて、第1回の現地派遣調査を実施しました。
 本調査では、文化省やUNESCOカトマンズ事務所など歴史遺産の保護に関わる主要な機関との打ち合わせを行うとともに、世界遺産の構成資産であるカトマンズ、パタン、バクタプルの旧王宮や、同暫定リストに記載されている郊外の集落であるサンクー、キルティプル、コカナ等を調査し、今後の本格調査のための対象物件・地域や調査手法等を検討しました。また、生き神「クマリ」が山車に乗って巡行するカトマンズ最大の祭礼、インドラジャトラ祭や、震災で中断されていた12年に1度の祭りであるブンガドヤジャトラ祭を見る機会を得、祭りが復興のなかで人々の絆を取り戻す原動力となっていることを感じました。
 この事業では、日本の他機関・他大学とも協力し、「伝統的建築技法」「構造計画」「都市計画」「無形文化遺産」といった多面的な調査を通じて、被災した文化遺産の適切な修復・保全方法を検討します。その上で、今後急速に進められることが予想される復興プロセスの中で文化遺産としての価値が失われないように、ネパールの関係当局への技術的な支援を行なっていく予定です。

to page top