研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


長尾美術館に関する基礎的研究―美術研究所との関わりの解明に向けて―令和6年度第8回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 令和6(2024)年12月18日に開催された第8回文化財情報資料部研究会では、文化財情報資料部研究員・月村紀乃が「長尾美術館に関する基礎的研究―美術研究所との関わりの解明に向けて―」と題した研究発表をおこないました。
 長尾美術館とは、わかもと製薬の創業者である長尾欽弥(1892~1980)・よね(1889~1967)夫妻が、昭和21(1946)年、夫妻の別荘である「扇湖山荘」(神奈川県鎌倉市)内に開いた美術館です。同館は、野々村仁清「色絵藤花文茶壺」(現・MOA美術館蔵)や「太刀 銘 筑州住左(号 江雪左文字)」(現・ふくやま美術館蔵)、宮本武蔵「枯木銘鵙図」(現・和泉市久保惣記念美術館蔵)など、名品として知られる作品を数多く収集していましたが、やがて所蔵品を少しずつ手放すこととなり、昭和42年(1967)頃には、解散状態に至りました。事実上の閉館から半世紀以上が経ちますが、美術館としての運営実態やコレクションの全体像はいまだ明らかになっていません。
 一方で、長尾夫妻は、作品の購入や展示に際して、東京文化財研究所の前身である美術研究所の所員と深い関わりを持っていました。なかでも、美術研究所に拠点を置いた「美術懇話会」や「東洋美術国際研究会」の活動について、長尾欽弥が理事として参画し、その所蔵品を研究者へ紹介する機会を得ていたことは特に注目されるでしょう。
 発表では、当研究所に残された関係資料の調査から、長尾夫妻と美術史研究者との交流が、長尾美術館所蔵品の評価につながっていた可能性を提示しました。また、発表後には、同館解散当時の状況を知る研究者から貴重な証言が寄せられるなど、活発な意見交換がおこなわれました。美術作品の伝来史や評価史を考えるうえで、長尾美術館は重要な存在であり、その全容を把握するべく今後も研究を進めてまいります。

「第58回オープンレクチャー かたちを見る、かたちを読む」開催

講演風景(逢坂裕紀子氏)
講演風景(川島公之氏)

 令和6(2024)年11月1日、2日の2日間にわたって、東京文化財研究所セミナー室で「第58回オープンレクチャー かたちを見る、かたちを読む」を開催しました。文化財情報資料部では、毎年秋に「オープンレクチャー」を企画し、広く一般から聴衆を募って、研究者の研究成果を発表しています。
 今回は、1日目に、「データベースにおける検索とキーワードの関係について」(文化財情報資料部 主任研究員・小山田智寛)と「AI時代におけるデジタルアーカイブ -文化の保存・継承・活用に向けて」(国際大学 GLOCOM研究員・逢坂裕紀子氏)の講演がおこなわれ、文化財デジタルアーカイブにおける将来的な可能性が示されました。
 また、2日目には、「韓国陶磁鑑賞史 -韓国におけるコレクションの形成」(文化財情報資料部 研究員・田代裕一朗)と「中国陶磁鑑賞史 -近代のわが国における中国陶磁鑑賞の受容と変遷」((株)繭山龍泉堂代表取締役、東京美術商協同組合理事長・川島公之氏)の講演がおこなわれ、韓国陶磁や中国陶磁に対する価値観の移り変わりが紹介されました。
 両日合わせて一般から138名の参加者があり、聴衆へのアンケートの結果、回答者のおよそ9割から「たいへん満足した」、「おおむね満足だった」との回答を得ることができました。

to page top