研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第36回世界遺産委員会

世界遺産委員会の会場となったタブリーダ宮殿
パレスチナの資産の記載が決まった瞬間の会場の様子
歓迎レセプションでの花火(ペテルゴフ大宮殿)

 第36回世界遺産委員会は、6月24日~7月6日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されました。当研究所では、世界遺産リストに記載されている資産の保全状況や、リストへの記載の推薦に対して、諮問機関が行った評価や勧告内容の要約と分析を事前に行うとともに、筆者を含む3名が委員会に参加し情報収集を行いました。
 今回は26件の資産が新たにリストに記載されました。記載延期の勧告から記載の「2段階昇格」資産は2件で前回より減りましたが、情報照会が勧告された資産6件すべてが記載され、諮問機関の勧告が覆される傾向は委員国の改選で緩和されたものの、まだみられるといえます。また、今回記載された資産には鉱山遺跡が3件ありますが、いずれも労働運動や事故など「負の歴史」にも関連し、歴史の暗部に着目する傾向も引き続きみられました。
 世界遺産条約は最も成功した条約ともいわれ、190カ国が批准しています。その知名度を象徴する現象として、今回「キリスト生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼の道」が緊急に記載されましたが、記載の推薦は「国家」が行うので、パレスチナが国家であることをアピールするものです。また、マリの世界遺産がイスラム原理主義者により破壊されましたが、これも、世界遺産の破壊という行為が世界に与える影響を考慮したものといえるでしょう。
 昨年のパレスチナの世界遺産条約批准によりアメリカの分担金拠出が停止され、最大の拠出国は日本となりました。また今回から、日本は委員国として自由に発言できる立場となったこともあり、日本が果たすべき役割は大きいといえます。当研究所では、国内関係者への情報提供とともに、世界遺産委員会へ日本が貢献するための情報分析などの支援も実施していきたいと考えています。

アンコール遺跡群での現地調査と覚書の更新

石材上の生物の種類と環境条件に関する調査
覚書への調印

 平成23年12月、カンボジアのアンコール遺跡群での現地調査と、東文研・奈良文化財研究所(奈文研)およびアンコール地域遺跡整備機構(APSARA機構)との覚書の更新を実施しました。
 アンコール遺跡群での活動の目的は、石材の保存にとって適切な環境条件を解明することです。石材の生物による劣化はアンコール遺跡群における共通の課題であり、生物の種類によって石材に及ぼす影響は異なると考えられます。しかし、環境と生物の種類との関連について、分類学的な内容を含む調査研究を行っている団体は少ないのが現状です。東文研では、環境条件と石材表面に生育する地衣類、蘚苔類、藻類などの種類との関連を明らかにし、それらの生物が石材に及ぼす影響を定性的・定量的に評価するための調査研究を実施しています。今回、日本および韓国から地衣類の分類学的研究の専門家、イタリアから植物生態学および文化財の生物劣化の専門家にも参加していただき、これまで継続的に調査を行っているタ・ネイ遺跡をはじめ、タ・ケオ、タ・プローム、バイヨンなど、環境が異なる周辺のいくつかの遺跡で調査を行いました。現在は各研究者が現地調査で得られた情報の解析を行っています。また、タ・ネイ遺跡では、付近の採石場から切り出した石材試料を遺跡に長期間設置して表面状態の変化の観察を行ったり、過去の保存処理実験の経過観察を行ったりしています。
 現地調査に引き続き、アンコール遺跡群での共同研究に関するAPSARA機構との覚書を更新しました。従来、覚書は東文研と奈文研がAPSARA機構との間でそれぞれ取り交わしていました。今回から、同じ地域で活動する両文化財研究所の連携を深めるため、三者の間で締結することとなり、シエムリアップにあるAPSARA機構の本部で東文研の亀井所長、奈文研の井上副所長とAPSARA機構のブン・ナリット総裁による調印式を実施しました。今後は、修理事業が予定されている西トップ遺跡でも保存整備のための調査研究を行います。

第35回世界遺産委員会

世界遺産委員会 開会の様子

 第35回世界遺産委員会は、6月19日~29日にパリのユネスコ本部で開催されました。当初はバーレーンでの開催を予定していましたが、アラブ諸国に広がった反政府デモなどの影響で開催2か月前に開催場所が変更されたことから、ホスト国主催の盛大な開会セレモニーや各地の遺跡をめぐるエクスカーションなどは行われず、変則的な開催となりました。また、委員国以外の各国政府関係者の参加人数に制限が設けられたこともあり、例年よりも参加者が少なめに感じられました。
 今回、世界遺産リストに登録された物件は25件(自然3件、複合1件、文化21件)です。当初、諮問機関であるICOMOSとIUCNから「登録」の勧告が出ていた物件は12件で、委員国の話し合いの中で倍以上に増えたことになります。諮問機関からの勧告には4段階ありますが、下から2番目の「登録延期」の勧告をされた物件のうち10件が2段階上がって登録されています。国立西洋美術館が含まれるル・コルビュジエの作品群は今回一番下の「登録せず」の勧告がなされていましたが、委員国の意見により「登録延期」となりました。このような、専門家集団である諮問機関の勧告を覆す決議がなされる傾向は昨年度からありましたが、今年度はさらにその傾向が強まりました。諮問機関の勧告の決定過程が不明瞭との不満が世界遺産条約の締約国にある一方で、専門家の意見を結果的に軽視した決議の連発には、世界遺産条約そのものの信頼性を損なうのではないか、との意見も一部の委員国からありました。
 また、すでにリストに登録された、あるいは今後登録されるかもしれない物件をめぐる政治的な対立も顕著に表れています。たとえば、タイとの国境に位置するカンボジアのプレア・ビヘア寺院は2008年に登録されて以来、周囲の国境が画定していないことからたびたび両国間での紛争が発生しています。今回、タイは遺跡の保存管理計画に関する情報が十分に提供されておらず、審議の過程も不透明であることを不満として、世界遺産条約からの脱退を宣言しました。また、コソボとセルビアをめぐる問題や、イスラエルとアラブ諸国との対立なども議論の的となり、あるいは議論を避けようとして対立を生んでいます。 日本から推薦された物件は、小笠原諸島、平泉ともリストに登録されました。審議の際にも、議長から地震や津波による犠牲者へのお悔やみの言葉が述べられました。震災からの復興にあたってこれらの登録がよい効果をもたらすことも期待されます。

カンボジア、タイでの共同研究

砂岩上に繁茂する地衣類に関する調査
(カンボジア タ・ネイ遺跡)

 11月下旬から12月初旬にかけて、カンボジアとタイでそれぞれ現地の文化財に関する調査研究を実施しました。カンボジアでは、アンコール遺跡群のタ・ネイ遺跡で、遺跡の石材の上に繁茂する様々な生物、特に地衣類やコケ類と環境との関連について、イタリアのローマ第3大学のジュリア・カネーヴァ教授にも参加していただき調査を行いました。タイでは、遺跡保存に対する覆屋の効果について、東部のプラチンブリにあるラテライトに彫られた仏足石やレリーフ、スコータイのスリチュム寺院大仏などで観察を行うとともに、アユタヤやバンコクで仏像などに用いられている漆に関する調査を行いました。さらに、共同研究の相手先である文化省芸術局で、局長を交えて今後の共同研究の進め方について協議を行いました。

拠点交流事業モンゴル:ヘンティ県所在の石質文化財保存修復に関する研修

赤外線温度計による岩石表面温度の計測実習
(セルベン・ハールガ遺跡)
過去の発掘坑を利用した地層はぎ取りの実習
(アラシャーン・ハダ遺跡)

 8月下旬に、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、モンゴル文化遺産センターの専門家を対象とする石碑・岩画の保存に関する現地ワークショップを、奈良文化財研究所の専門家とともに実施しました。昨年に引き続き、ヘンティ県のセルベン・ハールガおよびアラシャーン・ハダで行ったワークショップでは、石質文化財の保存方法検討のために必要な、石の材質や劣化状態、周辺環境に関する一連の調査を行い、またモンゴル側の専門家と共同で作業することを通じてその具体的方法を伝えていきました。これと併せて、モンゴル側から要望のあった地層はぎ取りの実習も行いましたが、これは同国では初めてのことだそうです。
 今後も引き続き、保存処理実験やその評価方法に関する研修を日本やモンゴルで実施するとともに、国内外の機関と連携を図ることによって、対象遺跡に関する理解を深め、より適切な保護手法について検討していく予定です。

第34回世界遺産委員会への参加

世界遺産委員国会議―議長席

 第34回世界遺産委員会が、本年で建都50周年となるブラジリアにおいて7月26日から8月3日まで開催されました。(現在、日本は委員国ではなくオブザーバー) 今回の委員会で顕著だったのは、諮問機関が「情報照会」や世界遺産一覧表への「記載延期」を勧告した物件の中から、これを覆して「記載」を決議されたケースが多くみられたことです。一部の委員国からは諮問機関の専門的意見を尊重し一覧表の信頼性を考慮すべきとの発言もありましたが、同機関の不透明性や近年の記載勧告率低下に対する各国の不満や反感は強いとの印象を受けました。一方、保存状況の報告では、既に世界遺産となっている遺跡を含む土地の領有権問題が複数、顕在化しました。
 既に記載されている遺産であれ、新規の記載であれ、世界遺産に関する制度は大きな転換点にさしかかっていると言えます。二年後の世界遺産条約40周年に向け、解決策の提言など日本がなすべきことは少なくないと考えます。

第19回アンコールの救済と発展に関する国際調整委員会技術委員会

 標記の会議(ICC)が、6月8日~9日にカンボジアのシエムリアップで開催され、アンコール遺跡やその周辺で活動するカンボジア内外の様々な分野の専門家が活動報告を行いました。当研究所は、植物の石材への影響に関するタ・ネイ遺跡での調査について報告しました。
 周辺環境や植物と石材の劣化との関連については、最近ICCでも関心を集めていますが、「遺跡の木を切ると石が劣化するので切ってはいけない」などと極端に単純化され理解されています。また、成果を急いで、自国だけでの実績に基づいた保存処理が行われることもあります。当研究所の発表は、このような環境との関連が強い問題に対しては、現地での長期的な調査が必要、と締め括りましたが、同様の調査を行う海外のチームから共感を得ることができました。

モンゴルでの拠点交流事業に関する協議・情報交換

モンゴル・ユネスコ国内委員会関係者および文化遺産センター長との情報交換

 東京文化財研究所は文化遺産国際協力拠点交流事業として、関係機関および専門家との連携、文化遺産国際協力コンソーシアムの協力により、モンゴルで木造建造物の修理、石碑・岩画の保存に関する研修を行っています。3月16日~18日、相手先であるウランバートルの教育・文化・科学省文化芸術局とモンゴル文化遺産センターで、昨夏に行った研修と関連調査の成果報告、次年度の活動方針について協議しました。成果に対するモンゴル側の満足は大きく、また今後の活動内容の具体的な提案から、期待の高さを実感しました。また、関連調査として、モンゴル・ユネスコ国内委員会委員長と面会、一覧表に登録済みの文化遺産の保護の方針や、今後登録を申請する文化遺産など、世界遺産に関する取り組みについて伺いました。木造建造物修理研修を行っているアマルバヤスガラント寺院は世界遺産暫定一覧表に登録されており、今後の展開が期待されます。

南スラウェシの洞窟壁画に関するインドネシアとの共同調査

アノアと手をモチーフとした壁画(スンパン・ビタ洞窟)

 遺跡モニタリングに関する共同研究の一環として、1月24日~30日にボロブドゥール遺跡研究所とともに、南スラウェシの洞窟壁画に関する現地調査を行いました。南スラウェシには100を超える数の鍾乳洞が存在し、そのいくつかには3000年~1000年前に描かれたといわれる壁画が存在します。壁画のモチーフは、人の手を壁につけた上から赤い色料を吹き付けたものが多いですが、バビルサ(イノシシの一種)やアノア(牛の一種)など地域固有の動物、魚や鳥、舟などもみられます。画面には、水の浸出による岩石成分の溶解および表面での再結晶、岩石表面の剥落といった現象がみられ、周辺樹木の伐採などによる環境変化がこのような壁画劣化の一因として考えられます。現地では8箇所の洞窟を視察し、その劣化原因と今後の保存対策についてインドネシア側専門家との議論を行いました。今後も、ボロブドゥール遺跡研究所や地元のマカッサル文化遺産保存センターと共同で、適切な保存計画の策定に向けたモニタリングの手法について検討していく予定です。

タイ・スコータイ遺跡での日タイ共同研究

スリチュム寺大仏

 東京文化財研究所は、タイ文化省芸術局とタイの文化財の保存に関する共同研究を行っており、9月14日~16日、共同の現地調査を行いました。スコータイ遺跡のスリチュム寺院には、煉瓦の芯に表面を漆喰で仕上げた高さ15m余りの仏像があります。その表面にはかつてコケ類や藻類が繁茂していましたが、11年前の撥水処理により、しばらくの間はきれいな状態を保っていました。しかし、近年再び藻類などによる汚れが部分的に目立つようになったため、その対策について仏像自体の観察やサンプルを設置しての実験、微気象の観測などにより検討を行っています。今回はスリチュム寺院でのこのような活動のほか、周辺の遺跡での観察も実施し、特に、覆屋を遺構に設置した場合の効果や欠点について検討を行いました。

第33回世界遺産委員会

ル・コルビュジエの作品群登録可否に関する投票の開票作業
審議風景。スクリーン中央に議長、両側に英仏2カ国語で審議内容が映る

 第33回世界遺産委員会は、6月22日~30日にスペインのセビリアで開催されました。40℃を超える暑さの中、時折迷い込んだ野鳥が飛び回る展示場を会場に、連日23時まで議論が行われました。日本からは関係省庁や研究機関、地元の遺産の一覧表への登録を目指す地方自治体関係者などが参加し、当研究所からは筆者を含め2名が参加しました。
 世界遺産一覧表には13件の遺産(自然2件、文化11件)が登録、1件が抹消され890件となりました。登録の傾向として、奴隷貿易関連の遺産が諮問機関の勧告を覆し登録されるなど、人権に関する遺産への高評価が伺えます。今回は情報照会の決議でしたが、国立西洋美術館を含むル・コルビュジエの作品群のような、複数の国にまたがる複数の遺産を1件として推薦することも、国際協調の観点から推奨されているようです。
 また、ドレスデン・エルベ渓谷の一覧表からの抹消が決議されました。登録直後に渓谷を横断する橋の建設が計画され危機遺産とされましたが、建設は中止されず、ドイツ側から具体的な代替案も提案されなかったためです。一覧表からの抹消は2例目ですが、遺産を持つ国が削除を希望していないにもかかわらず抹消されたのは初めてです。
 今回、予定されたいくつかの審議が来年に延期されました。秘密投票を伴う審議が複数あったのも原因ですが、同趣旨の発言の繰り返しも目立ち、議論の進行にも問題があるように思われました。また、国境問題を抱える国同士の対立による審議内容変更など、世界遺産の外交上の重要性を改めて認識することとなりました。

モンゴルでの拠点交流事業・協力相手国調査

アラシャーン・ハダ遺跡での調査
日本およびモンゴルの文化遺産保護に関するワークショップ

 9月3日から13日まで、拠点交流事業によるワークショップ開催、および協力相手国調査のためモンゴルを訪れました。
 9月5日から8日まで、日本に保存修復への協力が要請されているヘンティ県の遺跡を訪れました。アラシャーン・ハダ遺跡では、旧石器時代からモンゴル帝国の時代にわたり、岩石の上に動物の絵やさまざまな言語の文字が残されています。セルベン・ハールガ遺跡には、チンギス・ハーンも参加した戦争に関する記念碑が残っており、いずれもモンゴルの国宝といえる重要な遺跡です。ここでは、写真やGPSによる現状記録、劣化状態の調査を行いました。
 また、9月10日・11日には、モンゴル国教育・文化・科学省文化芸術局との共催、在モンゴル日本大使館の後援で「日本およびモンゴルの文化財保護に関するワークショップ-モンゴル文化遺産保護国家計画-」を開催しました。これに先立ち、東京文化財研究所とモンゴル国教育・文化・科学省文化芸術局は、文化遺産保存に関する協力についての合意書を結びましたが、このワークショップは協力事業の端緒となります。テーマの「国家計画」とは、文化財保護関連法令の整備、歴史的・文化的記念物の保護、観光開発による経済貢献などを目的に昨年12月にモンゴル政府が決定したものです。ワークショップには日本側14名、モンゴル側20名の関係者が参加し、日本・モンゴル各々4件ずつの発表と質疑応答が行われました。

モンゴルにおける拠点交流事業(予備調査)

アマルバヤスガラント寺院
アマルバヤスガラント寺院の視察

 今年度から始まった拠点交流事業の準備として、6月9日から14日までモンゴルを訪れました。本事業では本研究所の無形遺産部とともに、組織や法律など文化財保護の枠組みに関するワークショップの開催や、教育文化科学省所管の国立文化遺産センターに対する専門家育成のための研修事業を計画しています。教育文化科学省文化芸術局長との会談は、事業開始にあたって当研究所との合意書と覚書の締結を快諾していただくなど、友好的な雰囲気に終始しました。
 また、首都ウランバートルの北方約350kmにある、モンゴル最大級の木造建造物であるアマルバヤスガラント寺院を視察しました。この寺院では、1970年代初めから80年代半ばにユネスコを通じて派遣された日本人専門家による調査や修復事業が行われました。しかし現在は管理が不十分で、教育文化科学省の専門家は、緊急対応を要すると話していました。たしかに、屋根や彩色だけでなく構造上の劣化も発生している状態でした。ここでの議論を通じて、両国は、来年度以降実施する専門家養成に建造物関連の内容も含めたいと考えるようになりました。
 さて、6月末の総選挙の後、ウランバートルでは結果への不満を表すデモが暴動化し、当研究所のカウンターパートとなる文化遺産センターも焼き討ちに遭い、建物や機材、文化財が被害を受けました。関係者にお見舞い申し上げるとともに、大使館や関連分野の専門家と情報を共有し、緊急対応の可能性を探っているところです。

アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会総会

 表題の会議が2007年11月28日、カンボジアのシエムリアップで開催されました。年2回の委員会のうち技術委員会では、遺跡の保存修復や調査研究などに携わる組織の活動報告が行われますが、総会はより総合的な討議を行う場とされています。今回、口頭での活動報告は一部の大規模事業だけで、ほとんどの組織は事前に文章で活動報告を提出、会場で報告書集が配られました。
 本委員会の対象はアンコール遺跡ですが、実は今回、しばしば話題になったのはプレア・ヴィヒア遺跡でした。この遺跡はタイとの国境に位置し、来年には世界遺産リスト登録が確実とみられている重要な遺跡です。このほど、この遺跡の保存・整備にタイが協力することとなり、また両国のほかいくつかの国による国際調整委員会の組織が検討されている状況で、当該遺跡への関与についての意思表明が関係各国からなされました。日本に期待される役割はまだ具体的には示されないものの、大きいことは確かで、今後、何ができるのかを検討していく必要があるでしょう。

タイ・カンボジア現地調査

レンガ造構造物の保存処理の効果に関する評価
(タイ・アユタヤ遺跡)

 文化遺産国際協力センターは、タイおよびカンボジアにおいて、それぞれタイ文化省芸術総局、アンコール地区保存整備機構(APSARA)と共同で現地調査を行いました。タイでは、スコータイ遺跡およびアユタヤ遺跡において調査研究を実施し、スコータイ遺跡では、スリ・チュム寺院の大仏に繁茂するコケ類や藻類等の植物の対策についての調査や実験、アユタヤ遺跡では、3年前に実施したレンガ造遺構の保存処理について、評価のための調査を行いました。
 カンボジアでは、石造文化財の表面に繁茂する植物について、タ・ネイ遺跡での現地調査のほか、アンコール遺跡で使われている石材の石切場となっていたクーレン山周辺での砂岩石材の調査も実施しました。

アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会第16回技術委員会

多くの観光客が訪れる遺跡バンテアイ・スレイ

 7月5日・6日の2日間、カンボジアのシエムリアップで標記の委員会が開催されました。この委員会はアンコール遺跡の保護に携わる各組織の取り組みを発表する場で、本研究所もタ・ネイ遺跡の石材上の植物について、同定結果や遺跡内での分布と開空率との関連に関する研究成果を発表しました。
 また、討議のテーマのひとつに「持続的な発展」がありました。2005年の外国人観光客は67万人を越え、遺跡保護のみならず事故防止の点でも、見学路や施設の適切な配置が課題です。近くのシエムリアップでも下水道の未整備やごみの投棄による川の汚染が報告されています。これは遺跡を訪れる人々の責任でもあり、この分野でも各国の経験を生かした国際協力が不可欠だと感じられました。

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