ブータンの文化遺産指定民家修復に向けた部材調査

両国の大工棟梁ならびにスタッフによる部材調査の様子
現場全景

 東京文化財研究所では、平成24(2012)年以来、ブータン内務省文化・国語振興局(DCDD)と協働して、同国の伝統的民家建築に関する調査研究を継続しています。同局では、従来は法的保護の枠外に置かれてきた伝統的民家を文化遺産として位置づけ、適切な保存と活用を図るための施策を進めており、当研究所はこれを研究・技術面から支援しています。
 これまでに全国で80棟ほどの古民家を調査してきた中でも最古級と目されるのが、首都ティンプー市近郊のカベサ集落に所在するラム・ペルゾム邸です。土を版築して造られた外壁にほとんど開口部がないきわめて閉鎖的な建物で、今日一般的なブータンの民家とは大きく異なる特徴などから、建設時期は少なくとも18世紀代まで遡るものと考えています。
 平成25(2013)年に調査した時点で既に荒廃が進んでいましたが、上階床や屋根などの木造部分が平成29(2017)年に全崩壊するに至り、これを受けて、建物内部に散乱した部材の回収ならびに格納作業を実施し、残った外壁の構造体を保護するための仮屋根の設置も行われました。コロナ禍により現地活動が中断する間に本物件を文化遺産として保護するための手続きが進められ、令和5年(2023)年に民家建築としては初の遺産指定が実現しました。
 このたび、令和6(2024)年8月12日~23日にかけて、当研究所職員2名に外部専門家2名を加えた4名を日本から派遣し、DCDD職員らとともに、本建物の修復に向けた部材調査を実施しました。以前の格納作業にも携わったマルティネス・アレハンドロ氏(京都工芸繊維大学助教)が各部材の使用部位を同定する作業に加わる一方、日本の木造文化財建造物修理に豊富な実績を有する鳥羽瀬公二氏(日本伝統建築技術保存会会長)が部材ごとに再使用の可否と修理方法の検討を行い、この作業には歴史的建造物修理に従事するブータンの大工棟梁9名が参加しました。調査中にはツェリン内務大臣が現場視察に訪れたほか、国営テレビや新聞の取材を受けるなど、この取り組みには強い関心が寄せられています。得られたデータをもとに引き続き、オーセンティシティの保存に最大限配慮した全体修復計画の検討を進めるとともに、DCDD側での実施予算確保に向けた工費積算等の作業を支援していきます。
 本調査は、科学研究費助成金基盤研究(B)「ブータンにおける伝統的石造民家の建築的特徴の解明と文化遺産保護手法への応用」(研究代表者 友田正彦)により実施しました。

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