ブータン東部地域の伝統的民家に関する建築学的調査

サクテン集落での調査風景
荒廃が進む領主館の遺構(ポンメイ・ナクツァン)

 東京文化財研究所では、平成24(2012)年以来、ブータン内務省文化・国語振興局(DCDD)と協働して、同国の伝統的民家建築に関する調査研究を継続しています。同局では、従来は法的保護の枠外に置かれてきた伝統的民家を文化遺産として位置づけ、適切な保存と活用を図るための施策を進めており、当研究所はこれを研究・技術面から支援しています。
 今年度第1回目の現地調査を5月11日~23日にかけて行いました。当研究所職員3名に外部専門家2名を加えた5名を日本から派遣し、DCDD職員2名とともに、おもにタシガン・タシヤンツェの東部2県における石造民家調査を実施しました。
 今回対象とした地域は、昨年の同時期に既に訪問しており、その際に調査した3集落で継続調査を行ったほか、新たに3つの集落で調査を行いました。
 最初に訪れたタシヤンツェ県キニ集落では既調査3棟の補足と新規2棟を合わせて同集落内でとくに古いとみられる民家全てについて実測や家人への聞き取りを含む詳細調査を完了しました。
 次に、タシガン県メラ郡のメラ、ゲンゴ両集落では、補足1棟、新規6棟の調査を行いました。いずれも妻入の平屋で、小屋裏の正面側一部を木造外壁の居室とするものが多く、移牧生活を営む少数民族が暮らす当地固有の民家形式です。このような地域色の強い建物の分布を調査した結果、メラ集落全体で67棟を確認でき、とくに集落中心域では棟数の半分ほどを占めることがわかりました。
 その後、同じ民族が暮らす同県サクテン郡を初訪問し、同様の形式の民家がここにも所在することを確認しましたが、宅地を石塀や門で囲む家がみられるなど、集落景観の印象はかなり異なっています。隣接するサクテン、テンマ両村で計5棟を詳細調査し、純木造の小規模民家や製粉用の水車小屋なども含む、貴重な事例を収集することができました。同じ民族の生活圏は隣接するインド北東部に跨っていますが、その地域にも同様の民家がみられるとの情報を得ており、大いに興味を惹かれます。
 このほか、同県ポンメイ村で領主層の古民家2棟を調査しましたが、どちらも無住でうち1棟は石壁が大きく変形するなど荒廃が進み、かなり危険な状態でした。地方の過疎化に伴って今後こうしたケースが急速に増加することが懸念され、すぐに保存の策を講じることも現実には難しいとはいえ、まずは古民家の所在と現状の把握および記録が急務と言えます。
 本調査は、科学研究費助成金基盤研究(B)「ブータンにおける伝統的石造民家の建築的特徴の解明と文化遺産保護手法への応用」(研究代表者 文化遺産国際協力センター長・友田正彦)により実施しました。

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