研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


屋外彫刻の保存における問題を考える―第6回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 令和2(2020)年12月21日、文化財情報資料部では、野城今日子(文化財情報資料部アソシエイトフェロー)が、「屋外彫刻を中心とした「文化財」ならざるモノの保存状況についての報告と検討―シンポジウム開催を見据えて―」と題した研究発表をおこないました。
 日本には、全国各地の公共空間に屋外彫刻が設置されています。それらは、地域にとって重要な意味を持つ、かけがえのない存在です。しかし、多くの屋外彫刻はメンテナンスがされず、放置された状態にあり、さらに近年では安全性の問題から作品が撤去された例があります。そもそも、屋外彫刻は一般的に「文化財」として認識されておらず、ゆえに適切な保護体制の整備が進んでいません。
 本研究会では、このような屋外彫刻の問題を解決すべく、発表者から事例紹介と問題点が提示され、参加者とのディスカッションがおこなわれました。また、今回は、長年にわたり地域での屋外彫刻のメンテナンス活動に携わっている大分大学の田中修二氏と東海大学の篠原聰氏を招き、保存活動の現場が抱えている課題などについてコメントしていただきました。
 屋外彫刻の保存に関しての問題は、行政、教育、歴史など多岐にわたる問題が複雑に絡み合っており、簡単には解決できません。この問題の情報共有と解決方法を探るために、今後、シンポジウム開催を検討しています。

彫刻家・小室達についての基礎研究―文化財情報資料部研究会の開催

「伊達政宗騎馬像」(1935年完成、絵葉書より)
研究会の様子

 小室達(1899~1953)は、宮城県槻木町(現、柴田町)出身の彫刻家であり、仙台城に設置されている「伊達政宗騎馬像」(1935年完成)の作者です。同作は、観光地のシンボルとして有名ですが、作者自身の制作活動は、これまで広く知られていません。
 令和元(2019)年8月26日、文化財情報資料部では、野城今日子(当部アソシエイトフェロー)が、「彫刻家・小室達 基礎研究」と題した研究発表をおこない、遺されたアルバムや日記などの資料をもとに、小室の生涯と作品を整理した上で、代表作の「伊達政宗騎馬像」について考察しました。
 小室は、戦前の東京における団体展で作品を発表した一方、地元の宮城県では、郷土の名士たちの肖像彫刻や銅像、木彫作品を制作し、活動を展開しました。その中で地元の権力者や有識者との関係を培い、支持を得たと考えられます。また、「伊達政宗騎馬像」の制作時には、地元の郷土史家の意見をできるだけ取り入れ、「平和事業」をおこなった伊達政宗の姿を表したことを今回の発表で明らかにしました。
 現在、東京で活躍した彫刻家の動向は明らかになりつつありますが、小室のように、地方において制作活動を展開させた彫刻家は、作品や、詳細な動向が確認できる例が少ないため、今後さらに研究を深めていく必要があります。
 なお、今回は、コメンテーターとして小室の資料を所蔵する、しばたの郷土館の小玉敏氏をはじめ、大分大学の田中修二氏、台東区立朝倉彫塑館の戸張泰子氏ら近代彫刻史の専門家を招き、東京、宮城における小室の作品の相違点や、「伊達政宗騎馬像」の作風について活発な意見交換がされました。

to page top