ワット・ラーチャプラディットにおける学術セミナーへの参加

セミナーの様子(山下好彦氏撮影)
新作舞踊「螺鈿扉の舞 日タイの喜楽」
実物を用いた制作用具や材料に関する解説

 令和7(2025)年9月10日、タイ・バンコクのワット・ラーチャプラディットでのタイ文化省芸術局(以下、「芸術局」)主催の学術セミナー「ラーチャプラディット 美の鑑賞」に二神葉子(文化財情報資料部文化財情報研究室長)が参加しました。ワット・ラーチャプラディットは1864年にラーマ4世王が建立した王室第一級寺院で、拝殿の窓や出入口の扉には、寺院建立と同時期に日本で制作された漆塗りの部材がはめ込まれています。東京文化財研究所は扉部材について、修理への技術的な支援と調査研究を行うとともに、同寺からの受託で、修理後の扉部材を現地保存するための調査研究を実施しています。
 セミナーは芸術局のパノムプート・チャントラチョート局長の開会挨拶で始まりました。午前の第1部は「芸術の継承と創造、二つの国の遺産」と題し、漆扉部材の修理事業について同寺の僧侶や芸術局の専門家が報告を行い、日本側からは、二神が漆扉部材の修理及び調査研究事業のコンセプトについて報告しました。また、「統合から創造的な着想へ、未来への拡大」と題された午後の第2部では、いずれも東京文化財研究所の職員が参加した、扉部材の現地保存に関する令和7(2025)年6月の調査や、令和6(2024)年11月のタイ北部での材料調査の概要を芸術局の専門家が報告しました。日本側からは、漆扉部材に用いられた伏彩色螺鈿技法の特殊性について山下好彦氏(漆工品保存修復専門家・研究者)が報告、令和6(2024)年6月に芸術局と共同で行った、伝統的な材料に関する日本での調査について二神が報告しました。
 当日はこのほか、扉部材や材料に関する実物やパネル展示、芸術局による新作舞踊「螺鈿扉の舞 日タイの喜楽」の発表、屋台での和食の提供などのアトラクションもあって、盛況を博しました。筆者にとっても、東京文化財研究所の活動についてタイの幅広い関係者に報告する機会として有意義な一日となりました。

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