「創立150年記念特集 時代を語る洋画たち ―東京国立博物館の隠れた洋画コレクション」展(東京国立博物館)について

展示室風景
講演会風景 吉田暁子

 東京国立博物館の創立150年記念事業の一環として、「時代を語る洋画たち ―東京国立博物館の隠れた洋画コレクション」展(平成館企画展示室、6月7日[火]~7月18日[月・祝])が開催されました。同展は、東京国立博物館列品管理課長・文化財活用センター貸与促進担当課長である沖松健次郎氏による企画であり、当研究所からは文化財情報資料部部長の塩谷純、同部研究員の吉田暁子が、準備調査への参加などの形で協力しました。
 日本東洋の古美術コレクションのイメージが強い東京国立博物館(以下、東博)ですが、じつはその草創期から、欧米作家の作品を含む洋画も収集してきました。同展では、万国博覧会への参加や収蔵品交換事業といった活動によって各国からもたらされた作品が「Ⅰ 世界とのつながり」、最新の西洋美術を紹介し、国内での制作を奨励する目的で収集された作品が「Ⅱ 同時代美術とのつながり」、災害や戦争といった社会の動きに対応して収集された作品が「Ⅲ 社会・世相とのつながり」という章立てのもとに展示されました。
 同展の準備段階では、沖松氏による作品選定と収集経緯等の調査に基づき、作品の実見調査と撮影、資料調査、関連作品の調査などが行われました。第3章に出品された「ローレンツ・フォン・シュタイン像」(オーストリア、1887年)の像主は、大日本帝国憲法の起草に寄与したドイツの法学者ですが、沖松氏の調査・声掛けに応じた関係者からの情報提供により、像主の長男のアルウィン・フォン・シュタインが作者であることが同定されました。またレンブラント・ファン・レインによる版画作品「画家とその妻」(オランダ、1636年)は、戦後の一時期に東博が担った、西洋の近代美術の紹介という役割に関連して収集されたと考えられるものです。今回の調査では、外部専門家の助言によって版の段階(ステート)を絞り込むことができました。この他にも資料調査や関連作品の調査を通じた発見があり、これまでまとまった形で紹介されてこなかった東博の洋画コレクションの意義を改めて認識することになりました。
 7月16日には月例講演会「時代を語る洋画たち-東京国立博物館の隠れた洋画コレクション-」において、沖松氏、塩谷、吉田によるリレー形式の講演が行われました。
 沖松氏による展覧会全体の構想と、調査段階で判明した事項の紹介に続く各論として、塩谷は洋画家黒田清輝を記念するために設立された黒田子爵記念美術奨励資金委員会が、今回展示された松下春雄「母子」(1930年)や猪熊弦一郎「画室」(1933年)を含む昭和戦前期の洋画作品を東博に寄贈した経緯について紹介しました。また吉田はベルギーの画家ロドルフ・ウィッツマンによる油彩画の「水汲み婦、ブラバンの夕暮れ」を中心に、ロドルフとジュリエットという、ともに画家であったウィッツマン夫妻の略歴と、白馬会展への出品に始まる日本との関わりについて述べました。

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