アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査X―保管彫像類の調査

破損したドヴァラパーラ像
調査風景

 令和4(2022)年1月9日から1月24日にかけての現地作業の一環として、これまでにタネイ寺院遺跡で発見され、他所で保管されている石造彫像類の所在および現状に関する調査を行いました。アンコール遺跡群の遺物については、フランス極東学院(EFEO)が発見当時に作成した記録がありますが、その現状については体系的な調査がされてきませんでした。
 今回は文化芸術省所管のアンコール保存事務所の協力のもと、同所に保管されている遺物の実物と台帳記録類の照合作業を行いました。EFEOの台帳に記載されたタネイ関係遺物は全部で30数点あり、このうち16点の所在を確認することができました。所在不明の多くは神像の手足などの小断片ですが、像高2m前後と大型の門衛神ドヴァラパーラ像のうち3体は頭部が失われているほか、観音菩薩像1体も激しく損傷しており、内戦期の盗掘や破壊によるものと考えられます。このほか少なくとも2点の彫像がプノンペン国立博物館に保管されていることが、現地でのフランス人研究者からの情報提供により判明しました。
 加えて、最も盗掘が頻発した平成5~6(1993~94)年頃に同事務所が遺跡現地から回収した彫刻類などのうちにもタネイから運ばれたものがあることがわかり、今回は仏陀座像7点、ナーガ欄干7点、シンハ像2点を確認しました。これらの像が寺院内のどこにあったのかなどの情報を集めるととともに、所在不明の遺物の捜索をさらに続けたいと思います。
 一方、令和元(2019)年に行った同寺院東門の解体作業中に発見された観音像頭部は現在、シハヌーク・アンコール博物館に保管されており、これについても改めて3Dモデル作成用の写真撮影を実施しました。残念ながらこれに対応する胴体部は見つかっていませんが、あるいは今も遺跡内のどこかに人知れず埋没しているのかもしれません。
今後は機会を見て、他施設での調査も行っていきたいと考えています。

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