実演記録「踊地(常磐津節)」第一回の実施

常磐津節演奏の様子(左から常磐津秀三太夫、常磐津菊美太夫、常磐津兼太夫、常磐津文字兵衛、岸澤式松、岸澤式明)
囃子方演奏の様子(右から堅田喜代、堅田喜代実、梅屋巴)
囃子方演奏の様子(左から堅田昌宏、堅田崇)
囃子方演奏の様子(鳳聲千晴)

 無形文化遺産部では、令和3(2021)年1月29日、東京文化財研究所の実演記録室で「踊地(おどりじ)(常磐津節)」の実演記録(録音)を行いました。この記録は「常磐津《日高川三つ面》《唐人》録音実行委員会」と東京文化財研究所の共同事業として、稀曲《日高川三つ面》《唐人》の音声録音記録を作成し、保存することを目的としています。
 今回録音した作品は、ともに舞踊伴奏として演奏される「踊地」で、舞踊公演で取り上げられる機会が非常に少なくなったため、演奏の機会もほぼなくなっていた作品です。作品の成立について詳しいことはわかっていませんが、かろうじて幕末から明治にかけて刊行されたと思われる稽古本(いずれも玉沢屋新七本)と「菊寿郎の会」(師籍30周年)の公演映像(個人蔵)が残っています。また稽古本から、舞踊の振付は初代西川鯉三郎(名古屋西川流の家元)とわかります。今回はこれらの資料をもとに復元して演奏しました。
 《日高川三つ面》は、蝶々売が僧・安珍、清姫、所化(しょけ)の三役を、三つの面を掛け替えながら演じる趣向になっています。作品名の「日高川」から連想されるように、能楽、人形浄瑠璃、歌舞伎にも取り上げられた「道成寺物」をもとにしていますが、この作品は、一人三役をユーモアを交えて演じることで、軽妙さを兼ね備えた物売りの舞踊作品になっています。また、ドイツの童謡に日本語の歌詞を付けた唱歌《ちょうちょう》の「蝶々 蝶々 菜の葉に止れ 菜の葉に飽たら 桜に遊べ」の部分が詞章として用いられているのも興味深いところです。
 《唐人》は、作品全体が異国情緒溢れる中国風の音楽と舞踊から成っています。幕開は「唐楽」(雅楽の「唐楽」とは直接関係ない)と称される太鼓と鉦(かね)を伴う音楽で始まり、舞踊は辮髪(べんぱつ)の男性と中国風に髪を結い上げた婦人の二人立ちで、ともに衣装も中国風です。詞章にも呪文のような不思議な言葉が並び、大筋としては二人の廓話なのですが、どこかコミカルな雰囲気が漂います。
今回の演奏は、常磐津兼太夫(七代目、タテ語り)、常磐津菊美太夫(ワキ語り)、常磐津秀三(ひでみ)太夫(三枚目)、常磐津文字兵衛(五代目、タテ三味線)、岸澤式松(ワキ三味線)、岸澤式明(しきはる)(上調子(うわぢょうし))、鳳聲千晴(笛)、堅田喜代(小鼓)、堅田喜代実(大鼓)、梅屋巴(太鼓)、堅田昌宏(大太鼓)、堅田崇(鉦)の各氏です。
 無形文化遺産部では、今後も演奏機会の少ない作品や、貴重な全曲演奏の実演記録を継続し、機会があれば今回のような共同事業も実施していく予定です。今回の録音記録は、今後、実行委員会を通じて日本舞踊公演等で用いられるほか、研究資料として当研究所で試聴することができます。
 なお収録は、新型コロナウイルス感染症対策のため、歌舞伎の舞台でも使われているマスクを着用して行いました。

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