「ネパールの被災文化遺産保護に関する技術的支援事業」による現地派遣(その13)

第3回市長会議の様子

 文化庁より受託した標記事業の一環として、東京文化財研究所(東文研)では、ネパールにおける歴史的集落保全に関する行政ネットワークの構築支援を継続しています。これに関して、令和元(2019)年9月23日および12月1日に担当者レベルのエンジニアワークショップをキルティプル市で開催し、その成果を受けて、令和2(2020)年1月5日には「カトマンズ盆地内の歴史的集落保全に関する第3回市長会議」を同市と共催しました。
 市長会議は、歴史的集落保全に関する各市の取り組みや課題を共有する場として平成30(2018)年に始まり、これまでにパナウティ市(2018年)とラリトプル市(2019年)で開催しています。
 キルティプル市は、世界遺産暫定リストに登録されている旧市街地「キルティプルの中世集落」を有し、目下、市独自の保全条例制定に取り組んでいます。そのため、今回は「歴史的集落の保全制度」をテーマとし、2回のエンジニアワークショップを通じて制度に関する現状課題の把握と議論、情報共有を行いました。その結果、歴史的集落保全の行政組織や制度上の課題として、国政レベルにおいて文化財保護行政と都市計画行政で足並みが揃わず、歴史的集落保全のための枠組みが実効的な制度となっていないこと、また、市政レベルでは、独自条例を設けて先駆的に街並み保全を行っている市もあれば、条例やその基準を作成段階の市もあり、それぞれの市が抱えている課題の水準が異なることが明らかになりました。
 そこで市長会議では、これら国政と市政レベルでの課題を相互に共有することを目的として、国の文化財保護行政および都市計画行政が各々取り組んでいる保全制度について各担当者が報告し、5市のエンジニアが各市の条例やその課題について発表しました。日本側からは、神戸芸術工科大学の西村幸夫教授が「歴史的集落の保存と都市開発の役割分担」と題して基調講演を行い、東文研文化遺産国際協力センターの金井健保存計画研究室長が、日本の重要伝統的建造物群保存地区制度の事例を紹介しました。会議には、5市長、4副市長を含む120名ほどが参加し、会議の終盤にはフロアのエンジニアも交えた活発な意見交換が行われました。
 ネパールの歴史的集落保全は、国からの財政的、技術的なサポートが十分ではなく、各市は財源や人材の不足など多くの課題を抱えています。また、歴史的集落における基礎的調査の不足や、研究者や専門家との協力体制が築かれていないことも、既存の制度が有効に機能していない一因といえます。
 研究機関を交えた歴史的集落保全ネットワーク運営母体を立ち上げるための検討も始まりつつあり、歴史的集落保全を取り巻く環境の改善に向けて、自立的かつ継続的な関係者間の連携がさらに強化されていくことを期待しています。

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