イタリアにおける震災復興活動および遺跡保存に関する調査

ラクイラのサンタ・マリア・パガニカ教会
整備が行き届いたポンペイの街並み

 東京文化財研究所では、バガン遺跡(ミャンマー)において寺院壁画の保存修復ならびに2016年に発生した地震による被災箇所の修復事業に技術協力を行っています。同遺跡の整備計画に反映させるべく、令和元(2019)年10月9日から27日にかけて同じく地震からの復興活動や遺跡保存への取組みが続くイタリアを訪問し、ラクイラ市とポンペイ遺跡の2箇所で調査を実施しました。
 平成21(2009)年のアブルッツォ州震災から10年が経過した今もラクイラ市における復興活動は続いており、現地で修復事業に携わる専門家の話によると、復興状況は全体の50%程度に留まるそうです。被災した建造物の多くが壁画やストゥッコ装飾を有することから、それぞれの素材を複合的に捉えた修復計画が必要となり、事業の内容が複雑化することで進捗状況に影響がでているとのことでした。しかし、こうした点に配慮しながら続けられてきた復興活動の成果は、歴史的景観の保全という形で顕著に表れていました。
 一方、広大な面積を有するポンペイ遺跡では、維持管理を主な目的とする整備事業が100年以上にわたり続いています。遺跡を管理するポンペイ考古学監督局との面談では、遺跡全体を包括的に整備することの難しさや、時代と共に変わりゆく保存修復方針の変化とどのように向き合っていくべきかについて意見交換を行いました。
 今回の調査を通じて、複数の素材で構成された文化財の保存修復では総合的観点から計画を立てることがいかに大切であるかを改めて確認することができました。また、広大な遺跡を後世に伝えていくためには、維持管理への取り組みが重要であり、文化財への負担を最小限に留める最善の方法であることを実感しました。令和2(2020)年1月に計画しているバガン現地調査では、今回の調査結果を報告するとともに、バガン遺跡に適した保護活動のあり方について現地専門家とともに検討を重ねていく予定です。

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