アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査Ⅶ

クレーントラックによる解体作業
東門内部で発見された彫像頭部

 東京文化財研究所では、カンボジアでアンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)によるタネイ寺院遺跡の保存整備事業に技術協力を行っています。同遺跡における東門修復工事の開始に伴い、工事中の助言と記録作業等の実施のため、令和元(2019)年9月7日から11月5日にかけて職員および外部専門家計6名の派遣を行いました。
 本工事では、APSARAが工事の実施を担当し、本研究所は主に修復方法等に対する技術支援および調査研究面での協力を行っています。
 9月12日に地鎮祭を行って工事関係者全員で安全を祈願した後、屋根の解体を開始しました。解体にはクレーントラックを使用し、各石材に番付を付したうえで頂部から順に石材を取り外し、1段進捗する毎に現状の計測や調書の作成など必要な記録作業を行うとともに、取り外した石材についても個別に実測や写真撮影、破損状況等の記録作業を行いました。
屋根の解体が完了した後、建物内部に浸入した樹根や蟻塚を除去し、崩落していた石材を取り出しました。回収した石材は約70個で、屋根やペディメントの部材が大半を占めることから、経年により自然に崩壊した様子が窺えます。また、この作業中、崩落した石材の下から、観音菩薩と思われる彫像の頭部(高さ56センチ程)が、南翼の西壁面に立て置かれた状態で発見されました。未解明の点が多いタネイ寺院の歴史をひもとくうえでも貴重な資料と考えられます。写真や後述の3Dスキャンによる現状記録の後、詳細な調査にむけてAPSARAの管理施設に収容しました。
石材の回収完了後は、東京大学生産技術研究所大石研究室の協力を得て3Dレーザースキャンによる壁体および室内部の精密な記録作業を行い、あわせて建物の詳細調査とSfMによる壁面の記録等を行いました。その後、10月16日より壁体部分の解体に着手し、必要な記録等を行いながら安全に作業を進め、予定した範囲の解体を11月5日に完了しました。
 これら解体に伴う一連の調査を通して、樹根や蟻塚が石材の目地の細かな部分まで入り込み、建物が変形する一因となっている様子が確認できました。また、基壇および床面には不同沈下が認められることから、基礎構造に何らかの欠陥が生じている可能性が推測できます。建物の構造的健全性を回復するためには劣化メカニズムの解明とこれを踏まえた基礎構造の改善が不可欠であることから、引き続き12月にも職員等を派遣し、基壇の部分的な発掘調査および地盤調査を実施する予定です。
 このほか、9月18日にAPSARA本部で開催された、プレアヴィヒア寺院の保存整備に関する国際調整委員会(ICCプレアヴィヒア)に出席し、最新情報を収集しました。今後もAPSARA側との協力を継続するとともに、各国の専門家らとの意見交換や情報収集等を行いながら、アンコール遺跡における適正な修復事業のあり方を模索していきます。

to page top