南蛮漆器の成立過程と年代-第6回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 令和元(2019)年9月24日に開催された今年度第6回文化財情報資料部研究会では、文化財情報資料部広領域研究室長の小林公治が「南蛮漆器成立の経緯とその年代―キリスト教聖龕を中心とする検討―」と題した発表を行いました。
17世紀前半を中心に京都で造られ欧米に輸出用された南蛮漆器が、いつどのようにして始まったのか、という問題についてはいまだ確定的な見解がありません。またキリスト教の聖画を収める箱である聖龕は、これまで南蛮漆器のそればかりが注目されてきましたが、発表者は、日本のセミナリオで絵画を学んだヤコブ丹羽が描いたという救世主像が収められている東京大学総合図書館所蔵聖龕など、隠れキリシタン集落として知られる茨木市の千提寺・下音羽地区に伝えられてきた国内向けキリスト教聖龕と世界各地に所蔵される南蛮漆器聖龕とを総合的に検討し、双方に認められる無文の飾金具を持つ一群を、年代がほぼ確定される豊国神社所蔵蒔絵唐櫃や高台寺蒔絵と南蛮漆器文様を併せ持つ岬町理智院所蔵豊臣秀吉像蒔絵螺鈿厨子、さらに古様の蒔絵棚飾金具などと比較した結果、それらが16世紀末から17世紀初めにかけての年代が想定される最古の聖龕群であるとの判断を得ました。
 またこうした古式聖龕への判断は、発表者が過去に検討した南蛮漆器書見台とも整合的であり、その成立年代は聖龕よりもやや遅れる17世紀初め頃と想定されるという見解も得られました。
 本発表で行った検討は、南蛮漆器の成立経緯や年代を探ることを目的として行ったものですが、こうした見解が認められるのであれば、それは聖龕の中に収められている聖画や額縁の制作者や制作地、また豊臣秀吉や徳川幕府による禁教令と布教活動との関係など、17世紀初めを前後する時期の日本におけるキリスト教信仰や交易の実態といったさまざまな問題を再考するきっかけにもなるものかと思われます。
 当日は、初期西洋画修復家である武田恵理氏や鶴見大学小池富雄氏、また桃山時代の漆工品展覧会を開催されている美術館からなど、多くの関連分野研究者にもご出席いただき、手法的な側面を含め活発な討議が行われました。

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