「ネパールの被災文化遺産保護に関する技術的支援事業」による現地派遣(その8)

現地職員に3Dスキャナーの使用法を指導
変異計測のため建物外壁に設置したターゲット

 文化庁より受託した標記事業により、引き続きネパールへの派遣を行っています。10月29日〜11月10日に6名が、11月20日〜26日に2名がそれぞれ現地調査を実施しました。
 まず、カトマンズ・ハヌマンドカ王宮内アガンチェン寺周辺建物群の現状記録および修復計画作成のための詳細実測作業を6月調査に続いて行い、これと並行して東京大学生産技術研究所を中心とする構造班が3Dスキャンによる測量も行いました。同王宮内には宗教的理由から外国人の立ち入りが禁止されているエリアもあるため、測量機器の使用法を現地考古局職員に指導し、彼らと協力しながら作業を実施しました。立入制限は調査実施上の制約ではありますが、その反面で技術移転を促進する契機ともなっているように感じます。
 次に、既に調査を終えた内壁面仕上げの塗膜を剥がし、下地の煉瓦壁の仕様や状態を確認する作業を開始しました。この調査は煉瓦壁の破損状況を的確に把握するために必要なだけでなく、建物の変遷を解明する上でも大きな手がかりとなります。特に損傷が激しい等の理由から今後の修復の中で解体が想定される箇所については、歴史的証拠を調査記録する最後の機会となるかもしれないため、慎重の上にも慎重な観察が求められます。
 さらに、修復工事の過程で対象範囲に隣接する建物への影響がないかを継続的にモニタリングするため、変位計測用のターゲットおよび壁面傾斜の定点観測用ガラスプレートを各所に設置し、その初期値を計測しました。
 一方、6月に同王宮内シヴァ寺周辺で行った発掘調査で出土した遺物の整理作業も実施し、併せて考古局職員に整理手法について指導助言を行いました。
 文化遺産にも甚大な被害をもたらした震災から2年半が過ぎ、現地では各国チームによる修復事業もようやく活発化しています。私たちも、日本の修復専門家が参加して行われる上記修復事業を、今後も現地職員への技術移転を図りつつ、支援していきたいと思います。

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