シンポジウム「森と支える「知恵とわざ」―無形文化遺産の未来のために」の開催


令和6(2024)年8月9日、東京文化財研究所にてシンポジウム「森と支える「知恵とわざ」―無形文化遺産の未来のために」が開催されました。
昨今、無形のわざや、有形の文化財の修理技術を支える原材料が入手困難になっていることが大きな問題となっています。山を手入れしなくなったことによって適材が入手できなくなった、需要減少によって材の産地が撤退してしまった、流通システムが崩壊してしまった、など背景は様々ですが、いずれも、人と自然との関わりのあり方が変わってしまったことが要因としてあります。
本シンポジウムは、こうした現状を広く知ってもらい、課題解決について共に考えていくネットワークを構築することを目的に開催されました。まず第一部では5名の方をお招きして、自然素材を用いた様々なわざを実演いただきました。荒井恵梨子氏にはイタヤカエデやヤマモミジのヘギ材で編む「小原かご」、延原有紀氏にはサルナシやバッコヤナギ樹皮で編む「面岸箕」、中村仁美氏にはヨシで作る「篳篥の蘆舌(リード)」、小島秀介氏にはキリで作る「文化財保存桐箱」、関田徹也氏には里山の木で作る祭具「削りかけ」について実演や解説をいただき、参加者とも自由に交流していただきました。その後、第二部では秋田県立大学副学長の蒔田明史氏による講演「文化の基盤としての自然」と、当研究所職員3名による報告がありました。
先述したように、原材料の不足の背景には、人と自然との関係性が変化したことが大きな要因としてあります。それは社会全体の変化と直結しており、一朝一夕で解決できる問題ではありません。しかしだからこそ、この現状を広く社会に知っていただき、様々な地域、立場からこの問題について考え、行動していただくことが重要になってきます。無形文化遺産部では課題解決に少しでも寄与できるよう、今後も引き続き、関連する調査研究やネットワークの構築、発信をしていきたいと考えています。
なお、シンポジウムの全内容は近日中に報告書として刊行し、PDF版を無形文化遺産部HPで公開する予定です。