可搬型X線回折分析装置を用いた飛鳥大仏の材質調査

可搬型X線回折分析装置を用いた飛鳥大仏の材質調査

 奈良県飛鳥地方の中心にある飛鳥寺には、像高約3メートルの銅造釈迦如来坐像、いわゆる飛鳥大仏が本尊として安置されています。史料によりこの丈六の大きさの飛鳥大仏が推古14年(606年)に鋳造されたことや、その作者が止利仏師であったことが知られます。日本で最初の丈六像として重要な作品ですが、鎌倉時代初期に火災にあったため、当初の部分がどこに相当するかについては諸説提示されているのが現状です。
 平成28年(2016)6月16日・17日の拝観時間後、大阪大学藤岡穣教授の「5~9世紀の東アジア金銅仏に関する日韓共同研究」(科学研究費補助金基盤研究(A))の一環として、美術史学、保存科学、修理技術者、3D計測の専門家等により、飛鳥大仏の保存状態や製作技法に関する大規模な調査が実施されました。東京文化財研究所からは、早川泰弘、犬塚将英、皿井舞の3名が参加し、昨年度に当所が導入した可搬型X線回折分析装置(理研計器 XRDF)を用いて飛鳥大仏表面の材質調査を行いました。
 今回の調査では飛鳥大仏の周りに堅牢な足場が組み上げられたことにより、頭部の螺髪や面部、手や腹部など飛鳥大仏本体で10カ所の箇所を測定することができ、またそのほか飛鳥大仏に付随していたとされる銅造断片3カ所の合計13カ所を分析することができました。
 可搬型X線回折分析装置では物質の結晶構造に関する情報が得られます。今回、この結晶構造に関する情報と、大阪大学や韓国国立中央博物館が行った蛍光X線分析による物質の構成元素の種類に関する情報とを組み合わせることによって、化合物の種類を特定することができるようになります。これらの分析によって、飛鳥大仏の表面に存在している化合物の種類を同定し、測定対象箇所の化合物を比較することが可能になります。
 現在はこれらのデータの詳細な解析を行っており、今年度中に分析結果の報告を行う予定です。

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