近現代建築等の保護・継承等に係る海外事例調査Ⅰ―台湾での現地調査

華山1914文創園区:廃墟から再生した旧樟脳工場の赤レンガ建物(登録歴史建築)と藤森照信氏のコラボレーションによる茶室
松山文創園区:煙草製造工場(市指定古蹟)の雰囲気をいかした貸アトリエの空間整備

 文化遺産国際協力センターでは今年度、文化庁委託「近現代建築等の保護・継承等に係る海外事例調査」として、近現代建築を中心とした建築遺産保存活用の先進的な取組みが行われている諸外国等の事例調査を実施しています。その一環として、令和5(2023)年9月18日~22日にかけて台湾での現地調査を行いました。
 台湾では、平成12(2000)年の公共建設民間関与促進法や、クリエイティブ産業の振興が盛り込まれた平成14(2002)年の国家発展重点計画を契機として、平成12(2000)年代から平成22(2010)年代にかけて、産業遺産を中心に民間活力を導入した文化財建造物の保存活用が積極的に行われました。今回の調査では、文化部(平成23〈2011〉年までは文化建設委員会)が主導した「文化創意産業園区(以下、文創園区)」のうち、台北市内にある二つの文創園区を訪ね、営業施設としての文化財建造物の管理運営の状況や課題、展望等について管理運営組織へのインタビューを行いました。
 華山1914文創園区は1914年設立の官営酒工場、松山文創園区は1937年設立の官営煙草工場の土地建物を再利用したもので、華山では民間企業等の出資による台湾文創株式会社、松山では台北市傘下の財団法人台北市文化基金会が施設の管理運営を行っています。それぞれ組織体制や運営方針は異なりますが、ともに独立採算で運営されており、特別な場所としての文創園区の社会的認知を広げることで運営基盤の安定と収益の確保を図っている点では一致しています。一方で、建築遺産の保護のうち活用だけが民間の管理運営に託されたことで、遺産保護行政が取りしきる建築遺産の保存との間に様々な行き違いが生じやすくなっている実態も確認することができました。
 今回の調査では文化部文化資産局も訪れて、文創園区の事業評価についても伺いました。文化資産局では、保存は行政の仕事、活用は民間の仕事というような心理的な障壁が生まれてしまったことが、当初の目論見通りに文創園区が進んでいない原因と分析し、既に軌道修正を始めており、平成29(2017)年からは、土地と人々の記憶に結びついている文化資産の包括的な管理活用を社会インフラ整備政策に紐づけた「再造歴史現場(歴史的時間空間の再構築)」計画が進められています。
 文化遺産国際協力センターでは引き続き、対象国の関係機関や有識者からの協力を得ながら欧州諸国での現地調査を行い、文献資料に基づく海外の関係法制度等の調査結果とあわせて調査報告書にとりまとめていく予定です。

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