岸田劉生作「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」(東京国立近代美術館蔵)光学調査

岸田劉生作「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」の画像撮影

 企画情報部のプロジェクト研究「近現代美術に関する交流史的研究」では、日本を含む東アジアを中心とする交流に関する調査研究を目的のひとつにしています。
 この一環として、東京国立近代美術館が所蔵する岸田劉生による「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」(1916年)、ならびに「壺の上に林檎が載つて在る」(1916年)の2点の油彩画の光学調査を10月16日に行いました。
 今回の調査では、いずれの作品も岸田劉生がアルブレヒト・デューラー等のヨーロッパ古典絵画から影響を深く受けていた時期の作品だけに、図様だけではなく、技法、表現等の画面の細部を検証するために行われました。
 ヨーロッパ古典絵画にみられる平滑な画面は、テンペラ、油彩等の技法をふまえて積み上げ得られた絵画であったといえますが、岸田劉生は、もとより複製図版からの受容であっただけに、そうした理解があったのかどうか、当時の作品を観察することは、受容史の面からも重要な問題です。撮影にあたっては、画家の筆致や現在の画面の状態を視覚化できるように画面に均一な光を与えるだけでなく、油彩による画面の凹凸が把握できるように作品の左側から鋭角に照らす光を加えて実施しました。(撮影担当:企画情報部専門職員城野誠治)また、同時に反射近赤外線撮影を行いました。このような撮影によって得られた画像から、描き直しや模索などの跡がまったくなく、制作時にまでにかなりイメージを固めた状態で描かれたことが確認できました。
 なお今回の光学調査は、東京国立近代美術館ならびに修復家斎藤敦氏の協力のもとに実施することができたものであり、深く感謝する次第です。またその成果は、『美術研究』に論文「岸田劉生の写実表現と『貧しき者』という芸術家像の形成―岸田劉生の『駒沢村新町』療養期を中心に」(仮題)中で公表する予定です。

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