企画情報部研究会―黒田清輝宛書簡について2件の研究発表

高羲東(コ・フィドン、1886-1965)「程子冠をかぶる自画像」、1915年、東京藝術大学蔵

 企画情報部の文化形成研究室では、プロジェクト研究として「文化財の資料学的研究」を進めています。この研究は、日本を含む東アジア地域における美術の価値形成の多様性を解明することを目的に、基礎的な資料の解析等を行っています。基礎的な資料の一つとして、当研究所が保管する黒田清輝宛書簡約7400件の整理とリスト化を継続的にすすめています。
 その一環であり、同時に研究成果として、黒田清輝宛書簡のなかから、中国、朝鮮等のアジア諸地域から東京美術学校に留学し、黒田に師事した学生たちの書簡、ならびに黒田と深い関係にあった画家藤島武二の書簡に基づく研究会を8月6日に開催しました。研究会では、吉田千鶴子(東京藝術大学)氏が、「黒田清輝宛外国人留学生書簡 影印・翻刻・解題」、児島薫(実践女子大学)氏が「藤島武二からの黒田清輝、久米桂一郎宛書簡について」と題して、それぞれ発表が行われました。前者については、朝鮮からの留学生であった高羲東(コ・フィドン、1886-1965)をはじめとして、東京美術学校で学んだ後にそれぞれの国の美術界で重要な活動をした人物からの書簡等6通について留学生たちの紹介とそれぞれの書簡の内容の検討がありました。また後者では、当研究所が保管する藤島書簡37通、ならびに他機関が所蔵する書簡をもとに、藤島武二が東京美術学校西洋画科に迎えられる折の交信など、これまでの藤島武二研究ではみられなかった黒田、久米と藤島の関係が次第に親密になっていく過程や、美術学校内の人事をめぐる様子が検証、紹介されました。
 今回の両氏による発表にもとづく研究成果は、『美術研究』の「研究資料」として順次掲載する予定です。

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