イストリア地方における壁画保存に向けた共同研究に関する事前調査

聖ニコラス教会
スクリルジナの聖マリア教会

 クロアチアの北西部に位置するイストリア地方は、スロベニア、イタリアを含む3か国の国境が密集しており、古代ではローマ帝国、中世ではヴェネツィア共和国、近世ではハプスブルク帝国とたびたび支配者が替わってきた歴史があります。
 この地域では、中世からルネサンス期にかけて教会に壁画を描く文化が花開き、数多くの作品が誕生しました。しかし、それらの保存について注意が向けられるようになったのは19世紀後半と遅く、オーストリア=ハンガリー帝国の文化遺産管理局の活動がきっかけでした。その後、20世紀に入り大戦や紛争の時を経て、1995年以降にようやく落ち着きを取り戻すと、クロアチア共和国政府によって文化財のための保存研究所が設立されます。この研究所とイストリア考古学博物館による共同調査が始まるに至って、この地域に特有の壁画の総称として「イストリア様式の壁画」という言葉が誕生しました。
 令和5(2023)年3月1日から7日にかけて、イストリア歴史海事博物館のスンチツァ・ムスタチ博士やザグレブ大学のネヴァ・ポロシュキ准教授の協力のもと、イストリア地方の主要な教会約20箇所を訪問し、壁画に関する実地調査を行いました。その過程で、制作技法や保存状態に関するデータアーカイブの作成や、今後に向けた保存修復方法の検討などについての技術的協力が求められました。イストリア地方には、確認されているだけでも約150件にも及ぶ教会壁画が現存しています。このかけがえのない文化遺産を未来の世代に引き継ぐためにも、関連する分野の専門家とネットワークを構築しながら、国際協働の確立に向けて取り組んでいきます。

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