世界遺産研究協議会「文化財としての『景観』を問いなおす」の開催

案内チラシ(表)
研究協議会における討論の様子

 文化遺産国際協力センターでは、世界遺産制度とその最新動向に関する国内向けの情報発信や意見交換を目的とした「世界遺産研究協議会」を平成28(2016)年から開催しています。令和4(2022)年度は、「文化財としての『景観』を問いなおす」と題し、環境や領域の保全を理念の一つとするユネスコ世界遺産と、点から面への転換を目指すわが国の文化財保護の接点として「景観」に着目しました。昨年度、一昨年度は、コロナ禍のためオンライン配信とせざるを得ませんでしたが、今回は参加人数を50名に制限しながらも令和4(2022)年12月26日に東京文化財研究所で対面開催しました。
 冒頭、西和彦氏(文化庁)が「世界遺産の最新動向」について講演した後、金井健(東京文化財研究所)より開催趣旨を説明しました。つづく第Ⅰ部では、研究職の立場から惠谷浩子氏(奈良文化財研究所)が「日本における文化的景観の特質」、松浦一之介(東京文化財研究所)が「景観としての世界遺産:範囲設定とその根拠法」、また第Ⅱ部では、行政職の立場から植野健治氏(平戸市)が「協働による景観保護の可能性」、中谷裕一郎氏(金沢市)が「金沢の文化的景観の価値を活かした景観まちづくり」について、それぞれ講演しました。その後、登壇者全員が日本の文化財保護制度における景観の位置づけなどについて討論しました。
 講演と討論をつうじて、わが国では文化財としての景観が概念や制度の上で非常に限定的に捉えられているのに対し、特にヨーロッパでは都市計画、環境保全、農業政策などの国土利用に広く位置づけられている実態が明らかになりました。日本では文化財保護と都市計画が別々の歩みを進めたことが、今なお面的な保護の遅れに大きく影響しているとの指摘もありました。このようにわが国では複雑な課題を抱えた「景観」のテーマも含め、当センターでは引き続き遺産保護の国際的制度研究に取り組んでいきたいと思います。

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