茨木市立文化財資料館2022年度郷土史教室講座の講師

茨木市立郷土資料館第1回郷土史教室講座の様子

 大阪府の茨木市立文化財資料館では毎年6回にわたって郷土史教室講座が開催されていますが、令和4年度の第1回講座には特任研究員の小林公治が講師に招かれ、同館にて7月16日(土)、「三つの聖龕と一つの厨子 千提寺・下音羽のキリスト教具が語るもの」という題名でお話ししました。
 茨木市内北部に位置する千提寺・下音羽地区は、16世紀末にキリシタン大名であった高山右近の所領地となったことで多くの領民がキリスト教に改宗した土地です。またその信仰は江戸時代の厳しい禁教期を経て近現代まで伝えられてきたことから、かくれキリシタンの集落として広く知られています。この地域のキリシタン文化の大きな特徴は、各地の潜伏あるいはかくれキリシタン地域や集落には伝えられていない、奇跡的といっても過言ではないほど多種多様なキリスト教遺物が現在まで数多く伝えられてきたことであり、その一つとしては、現在は神戸市立博物館に所蔵されている重要文化財「聖フランシスコ・ザビエル像」がよく知られています。
 国内におけるキリスト教信仰の実態を探るため、これまで筆者は同地に伝わる各種のキリシタン器物、中でもキリスト像や聖母子像といったキリスト教聖画の収納箱である聖龕を中心に調査研究を行ってきました。この地の聖龕は外面を黒色のみで塗装するシンプルなもので、その伝来経緯からも明らかに日本国内の信仰に関連するものですが、一方で欧米への輸出品としてヨーロッパ人によって日本の工房に注文され、蒔絵と螺鈿で豪華に装飾された同形の南蛮漆器聖龕が知られており、同じ機能を持つキリスト教具でありながら、両者は顕著な差を示しています。さらに、聖龕に収められている聖画には黒檀材製と推測され西洋式接合構造をもつ額縁や、蒔絵を用いた国内製の額縁がそれぞれ伴っており、その由来や制作技法は重要な問題をはらんでいると見られます。一方、厨子にはやはり黒檀と見られる黒色材の十字架に象牙製のキリスト像が磔刑されていますが、この像や厨子についてもこれまでほとんど関心を持たれることがなく、その制作地や年代などについてもいまだ明らかにされていません。
 今回の講座では、こうした聖龕や厨子の実態や、それらの検討で明らかとなった桃山時代から江戸時代初期の日本国内でのキリスト教受容の実態や信仰のあり方をテーマとしましたが、新型コロナ感染再拡大のなか、抽選によって参加された約40名の方々からは熱心な質問も受け、この地のキリシタン文化や歴史に対する高い関心を伺うことができました。
当地に伝えられてきたキリシタン文化やその遺品は他に類のない貴重な歴史の道標です。報告者も引き続き調査を進め、今後も成果を報告発信していきたいと考えています。

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