セインズベリー日本藝術研究所での活動
イギリス・ノリッジにあるセインズベリー日本藝術研究所(以下、セインズベリー研究所、Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は欧州における日本芸術文化研究の拠点として欧米の関係者にはよく知られた研究機関です。東京文化財研究所とは2013年7月に共同事業「日本芸術研究の基盤形成事業」に関する協定を結び、以来、主に欧米の日本美術の展覧会や日本美術に関する書籍・文献の英語情報の提供を受けています。
今回、サバティカル渡英中の文化財情報資料部客員研究員の津田徹英(青山学院大学文学部教授)は、7月8、9日の日程でセインズベリー研究所が主催するオンライン・ワークショップ “Absence, Presence, and Materiality: Refiguring Japanese Religious Art and Culture(邦訳:モノとしての不在と顕在:日本の宗教芸術と文化の再構築)”に参加し、第二日目に”Reinterpreting Esoteric Buddhist Sculpture in Nara period(8th century)邦訳:奈良時代(8世紀)における密教彫刻再考”のタイトルで口頭発表を行いました。同発表では空海によって平安時代(9世紀初頭)に密教が日本にもたらされる以前の奈良時代後半において密教が流入・受容されており、既に明王像の造像が行われていたことを具体的な現存作例を挙げながら、その作例の存在意義に及んだものです。このワークショップは日本時間を基準にして開催されました。そのため欧米では時差のため深夜・早朝での開催となってしまいました。にもかかわらず聴講者は欧米を中心にロシア・台湾にまで及んで両日でのべ72人の参加者がありました。改めて世界各地に日本の宗教文化に関心を寄せる研究者が少なからずいることを実感いたしました。
また11日には、同研究所を管轄するイーストアングリア大学(UEA)セインズベリーセンター内のミュージアムが所蔵している80点にも及ぶ縄文時代から中世に及ぶ日本美術(彫刻・工芸)のコレクションについて、すべての作品に解説を付すべく、その要請がセインズベリー研究所より津田にあり、そのための熟覧調査を同研究所所員の松葉涼子氏とともに行い意見交換をいたしました。このコレクションについては日本ではほとんど無名ですが、仏教美術に限ってもそれらのなかには奈良時代(8世紀)の金銅仏や平安中期(10世紀)の菩薩坐像など小像ながら佳品が含まれています。かつ、そのいくつかは東京文化財研究所の売立目録アーカイブとも照合が可能なものです。
あわせて同日午後2時よりロンドンにある在英国日本大使館の伊藤毅公使の展示品の視察があり、松葉涼子氏とともに津田が解説を行い、公使は熱心に作品を見ながら解説に耳を傾けられておられました。