ネパールの被災文化遺産の復旧支援に向けた事前調査

調査開始前のシヴァ寺基壇南東隅部
解体調査によって露出した基壇内部の当初と思われる構造

 平成27(2015)年4月25日にネパールを襲ったマグニチュード7.8の地震により、首都カトマンズを含む広範な地域が被災し、世界遺産を含む多くの文化財も被害を受けました。東京文化財研究所は、文化庁委託事業などを通して同年11月から被災文化遺産の保護に関する調査・支援を続けてきました。今回は、国際協力機構(JICA)からの要請を受けて筆者が派遣され、令和3(2021)年12月5日~17日の間、カトマンズ・ハヌマンドカ王宮内シヴァ寺の基壇の部分的解体調査を行いました。
 シヴァ寺は17世紀建立と伝えられる平面規模5メートル四方程度の重層建物で、上記震災によって上部構造が完全に倒壊しました。当研究所は平成29(2017)年6月にも同寺院の基礎構造を確認するための発掘調査を行いましたが、今回は本格的な復旧に必要となる構造補強検討のための基礎的資料を得るため、残存する煉瓦造の基壇内部の構成および状況確認を目的とした調査を実施しました。
 調査の結果、基壇の上層部や外周部には各種の煉瓦が雑に積まれていて後代の補修時のものと思われるのに対し、下層部および内部には規格の揃った煉瓦が整然と積まれていることがわかりました。これら創建当初と推測される部分は比較的安定した状態を保っており、以前の発掘調査結果とも一致します。
 このほか、上部構造の石材同士の接合部に用いられていた接着剤や、基壇を構成する煉瓦の目地に充填されていたモルタルの成分分析も予定しています。これらの成果が、ネパールの震災復旧支援の一助となり、ひいては現地における歴史的建造物への理解増進に資することを期待しています。

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