研究会「東南アジアにおける木造建築遺産の保存修理」の開催

研究会「東南アジアにおける木造建築遺産の保存修理」プログラム

 令和2(2020)年11月21日、東南アジア諸国で行われている木造建築の保存修理の方法や理念をテーマとした研究会をオンラインで開催しました。この研究会は、文化遺産国際協力センターが東南アジアの木造建築をテーマに連続で開催してきたもので、今年はその4回目となります。これまでの3回は、歴史学や建築史学、考古学といった学術的な側面から東南アジアにおける木造建築の実像に迫ってきましたが、今回はこのテーマの研究会の締めくくりとして、当研究所が日々の業務で取り組んでいる文化財保護の実務的な側面に焦点をあてました。
 研究会には東南アジアにおける木造建築の保存修理を担う技術者として、タイ王国文化省芸術局建造物課主任建築家のポントーン・ヒエンケオ氏とラオス・ルアンパバーン世界遺産事務所副所長のセントン・ルーヤン氏、また東南アジア地域の文化遺産保護に精通した専門家としてユネスコ ・バンコク事務所文化ユニットのモンティーラー・ウナクーン氏の参加を得ることができました。ポントーン氏からはタイ国内の文化財に指定された寺院建築、セントン氏からはルアンパバーンの町並みを構成する住居建築を事例にして、文化遺産としての木造建築修理の方針や具体的な方法についてそれぞれ報告があり、モンティーラー氏からはインドネシアやタイで近年行われた木造建築の保存修理やこれに関する人材育成の先駆的取組みが紹介されました。
 研究会の後半には、友田正彦文化遺産国際協力センター長の司会のもと、前半の報告者3名に国宝・重要文化財建造物保存修理主任技術者である文化財建造物保存技術協会の中内康雄氏を加えた計5名によるパネルディスカッションが行われました。その中での議論を通じて、木造建築の保存の考え方や修理の仕方には図らずも多くの共通点があることが改めて確認されるとともに、生産者や職人など伝統的な材料や技術を支える人材の不足が、現代社会の中で伝統木造建築が抱える普遍的な課題であることが認識されました。
 今回の研究会は、もともと当研究所セミナー室で開催する予定で準備を進めていましたが、コロナウィルスの感染拡大の収束が見通せない状況に鑑み、ウェビナー形式に切り替えて開催したものです。従来、実地で開催してきた研究会をオンラインで開催することができたのは一つの収穫といえますが、当方の不慣れに加えて想定外のトラブルもあり反省点が数多く残されたことも確かです。これを機にポストコロナ社会に適したあたらしい研究会等イベントのあり方を模索していきたいと思います。

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