台湾指定古跡・旧日本海軍鳳山無線電信所の調査

現在の旧佐世保無線電信所施設とその周辺(長崎県佐世保市)
旧鳳山無線電信所の中心にある電信室正面(台湾高雄市)

 長崎県の佐世保市と西海市をへだてる針尾瀬戸をみおろす丘陵上にある旧佐世保無線電信所(針尾送信所)は、海軍が大正11(1922)年に建設した長波通信基地の遺構です。わが国のコンクリート構造の草分けとして知られる海軍技師・真島健三郎(1874~1941)が率いた佐世保鎮守府建築科が手がけた、高さ136メートルに及ぶ3基の巨大な電波塔に象徴される上質な鉄筋コンクリート造の建造物群は、当時最高水準のコンクリート技術を示すものとして、平成25(2013)年に重要文化財に指定されています。
 重要文化財の指定後、旧佐世保無線電信所施設(以下、佐世保)を管理する佐世保市では文化財としての保存と活用のための整備を進めています。令和2(2020)年2月12~13日の間、筆者が委員を務める整備検討委員会の活動の一環として、台湾南部の高雄市郊外にある旧日本海軍鳳山無線電信所の調査を行いました。
 鳳山無線電信所(以下、鳳山)は、同じく佐世保鎮守府が手がけた長波通信基地で、佐世保より5年先立つ大正6年(1917)に完成しました。2000年代まで台湾海軍の招待所や訓練所として利用された後、公開施設となり、2010年に台湾の古跡に指定されています。鳳山は、佐世保と同じ組織による設計だけあって、電波塔こそ当時一般的な鉄塔(解体撤去済み)でつくられたものの鉄筋コンクリートが多用され、半径300メートルの円周道路や中心部の主要施設の配置など佐世保と類似した構成になっています。今回の調査で、鳳山は戦後一貫して大規模な更新や改造を要しない教育的施設であったため、主要建物の改変が比較的少なく、日本海軍時代の様相を今も留めていることが確認できました。特に施設の中心にある電信室は佐世保と同形式で、一部火災で消失しているものの、鉄扉や上下窓枠といった建具のほか内部の床や階段など木製の造作が残っており、建設当時のよく姿を伝えています。佐世保の電信室は大戦末期の耐爆化に伴う改造に加え、海上自衛隊及び海上保安庁時代の時々折々の改修も少なくないことから、今後、保存修理の方針を検討する上での有効な参考資料になると考えられます。
 いっぽう鳳山には現地で「十字電台(ラジオ局)」と呼ばれる、その重厚な建築的特徴から作戦指揮所を思わせる特異な建物があるなど、少なからず佐世保との違いもありました。鳳山の整備では、白色恐怖(国民党政府が反体制派に対して行った政治的弾圧)時代に鳳山が政治犯矯正の場所となっていた事実に焦点が当てられており、日本海軍時代については余り注目されておらず、未解明の事柄も多く残されているようです。今後、文化財としての保護を共通項に、佐世保と鳳山の交流を進めていくことで、日台の近代化遺産における保存理念や修理方法の展開にも貢献できるものと期待されます。

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