バンコクにおけるタイ所在日本製漆工品に関する調査の実施

ワット・ラーチャプラディットでの調査の様子

 タイ・バンコク所在のワット・ラーチャプラディットは、ラーマ4世王の発願により1864年に建立された王室第一級寺院です。同寺院の拝殿の開口部には、伏彩色螺鈿の技法により装飾された日本製の扉部材が用いられており、東京文化財研究所ではこの扉部材の修理に関して、タイ文化省芸術局及び同寺院の依頼により技術支援を行っています。文化財の修理は作品に関する知見を深める機会でもありますが、同時代の輸出漆器に関する研究事例はまだ少なく、扉部材の来歴はいまだ明らかではありません。そこで、令和2(2020)年1月12日〜18日に、バンコクにおいて伏彩色螺鈿を含む日本製漆工品の熟覧調査を実施しました。
 今回の調査では、ワット・ラーチャプラディットにおいて、扉部材の状態調査を実施するとともに、タイ側が主体的に実施する修理事業の計画について、芸術局長の臨席のもと情報交換を行いました。また、最も格式の高い王室第一級寺院の一つであるワット・ポーでの調査の機会を得て、螺鈿と蒔絵による装飾を有する夾板(ヤシの葉に経典などを記した文書(貝葉)を挟んで保護する細長い板)1組を熟覧しました。さらに、バンコク国立図書館では平成31(2019)年に引き続き、同館所蔵のラーマ1世王から5世王の時期の貝葉の一部を対象にそれらの夾板の熟覧調査を行ったところ、これまで知られているものとは別に、螺鈿と蒔絵の装飾を有する夾板1点があることがわかりました。
 今回はこのほか、明治44(1911)年にタイに渡り、かの地において漆芸の分野で技師及び教育者として活動した、三木栄(1884-1966)が使用していた道具箱の調査を行いました。伏彩色螺鈿をはじめとした幕末から明治期の日本製漆工品を通じた、日本とタイの交流に関する調査に、いっそう広がりが得られたように感じています。

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