黒田清輝と久米桂一郎の交遊をおって――第7回文化財情報資料部研究会の開催

フランス留学中の久米桂一郎(左)と黒田清輝
明治28(1895)年4月1日付久米桂一郎宛黒田清輝書簡の一部。結婚したばかりの黒田が、フランス語を交えて自身の結婚観を綴っています。

 洋画家の黒田清輝(1866~1924年)と久米桂一郎(1866~1934年)は、ともにフランスでアカデミズムの画家ラファエル・コランに画を学び、アトリエを共用するなど交遊を深めた仲でした。帰国後も、二人は新たな美術団体である白馬会を創設、また美術教育や美術行政にも携わり、日本洋画界の刷新と育成に尽力しています。
 久米桂一郎の作品と資料を所蔵・公開する久米美術館と、黒田清輝の遺産で創設された当研究所は平成28(2016)年度より共同研究を開始し、その交遊のあとをうかがう資料の調査を進めています。なかでも二人の間で交わされた書簡は、公私にわたり親交のあった彼らの息吹を伝える資料として注目されます。令和元(2019)年12月10日に開催された第7回文化財情報資料部研究会では、「黒田清輝・久米桂一郎の書簡を読む」と題して、塩谷が久米宛黒田の書簡について、久米美術館の伊藤史湖氏が黒田宛久米の書簡について報告を行いました。
 今回の調査の対象となった書簡は、彼らが留学より帰国した後の明治20年代後半から大正時代にかけて交わされたものです。当時の書簡で一般的に用いられていた候文ではなく、口語体の文章で制作の近況や旅先の印象を伝えあい、時には身内に解らないようにフランス語を交えて内心を吐露したりしています。また明治43(1910)年から翌年にかけて、久米が日英博覧会出品協会事務取扱のため渡英した際の書簡では、博覧会の様子や師コランとの再会、現地の画家との交流等について詳細に報告され、当時の洋画家のネットワークをうかがい知る資料ともなっています。
 発表後は、書簡の翻刻にあたりご尽力いただいた客員研究員の田中潤氏と齋藤達也氏も交え、意見交換を行いました。本研究の成果は、次年度刊行の研究誌『美術研究』に掲載する予定です。

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