大韓民国国立無形遺産院との研究交流(来訪研究員の受入)

奥能登における揚げ浜式製塩の調査風景
宇治における製茶の調査風景

 東京文化財研究所無形文化遺産部は平成20(2008)年より大韓民国の国立無形遺産院と研究交流を継続しています。その一環として平成30(2018)年10月15日から11月2日にかけて、国立無形遺産院学芸士の尹秀京氏を来訪研究員として受け入れ、研究交流を行いました。
 今回の研究交流における尹秀京氏の研究テーマは、日本における無形文化遺産としての民俗技術に関するもので、特に製塩と製茶に焦点を絞ったものでした。そこで私たち無形文化遺産部では、国の重要無形民俗文化財に指定されている奥能登の揚げ浜式製塩(石川県珠洲市)と、静岡県静岡市および京都府宇治市における製茶の現地調査に同行し、その研究のサポートを行いました。
 無形文化遺産としての民俗技術は、日本では無形の民俗文化財の三つのカテゴリーのひとつとして、風俗慣習および民俗芸能と並んで位置付けられていますが、実は民俗技術が加えられたのは平成16(2004)年の文化財保護法改定の時のことです。2018年現在、国の重要無形民俗文化財に指定されているものは309件ありますが、そのうち民俗技術のカテゴリーに入れられたものはわずか16件しかありません。また製塩については奥能登の揚げ浜式製塩が国の重要無形民俗文化財に指定されていますが、製茶については都道府県による指定を受けているものはあるものの、国の指定を受けたものはまだひとつもありません。ただし宇治市の「宇治茶」については、茶園および製茶場が国の重要文化的景観である「宇治の文化的景観」の構成要素となっており、また日本遺産「日本茶800年の歴史散歩」の構成要素にもなっています。
 いっぽう大韓民国では、無形文化財のカテゴリーのひとつに「伝統知識」があり、製塩と製茶はその中に位置づけられ、国の文化財として指定されているとのことでした。さらにその際、保持者や保護団体を特定しなくても、広範囲の地域に伝承されてきたものを包括的に指定することができるとのことでした。日本の文化財保護法では、無形の民俗文化財を指定する際にはその保護団体を認定する必要があります。無形文化財の保護制度において、日韓の間で相違があるのは興味深いことです。
 こうした研究交流の良い点は、互いの国の無形文化遺産の違いを知るとともに、その保護のあり方の違いを知ることにもつながることです。こうした情報の交換を通じて、お互いの国でそれぞれ、より良い文化遺産保護のあり方を見直すきっかけになれば意義深いことでしょう。

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