現代美術の保存・修復をめぐって――文化財情報資料部研究会の開催

研究会、小川絢子氏による発表の様子

 ひところは難解なイメージで敬遠されがちだった現代美術ですが、近年では日本でも親しみやすい現代“アート”として身近な存在となってきているようです。美術館でも現代美術の作品を展示し、収蔵するのが常となっていますが、その素材や技法が多種多様であるために、従来の保存修復のノウハウでは対処しきれない問題も生じているのが現状です。1月30日の文化財情報資料研究会では、そうした現代美術の保存・修復をめぐる状況について、小川絢子氏(国立国際美術館特定研究員)と平諭一郎氏(東京藝術大学Arts & Science LAB.特任准教授)よりご発表いただきました。
 「美術館における現代美術の保存と修復」と題した小川氏の発表は、美術館という現場で直面する課題に即した報告でした。小川氏の勤める国立国際美術館では、映像やインスタレーション、パフォーマンスなど、美術館の枠に収めるのが難しいとされるタイム・ベースド・メディア作品(表現形式に時間軸を伴う作品)を積極的に収集・展示しています。この研究会の直前に同館で始まった「トラベラー まだ見ぬ地を踏むために」展(2018年1月21日~5月6日)に出品の、ロバート・ラウシェンバーグの作品やアローラ&カルサディーラのパフォーマンス作品等を例に、それらの受け入れや展示に至るまでの取り組みが紹介されました。
 平氏の発表は「保存・修復の歴史において現代はそんなに特別か」と題した、日本古来の文化財と欧米由来の美術の保存修復のあり方に一石を投じるものでした。1960~80年代に制作された、ナムジュン・パイクに代表されるヴィデオ・アートの作品は、液晶ディスプレイが主流の今日ではほぼ代替不能なブラウン管テレビが使用されています。今日、その修復にあたり液晶ディスプレイを用いることで物質的な同一性が損なわれたとしても、作品の遺伝子ともいうべき核心的同一性は確かに伝えられるのではないか――伊勢神宮の式年遷宮等に見られる日本古来の文化財の伝承法をも見据えた、広い視野に立つ提言は、現代美術のみならず、修復対象によって補彩・補作や想定復元をめぐる考え方が異なる文化財修復のあり方にも再考を促すものとなりました。
 いつもは美術史的な発表内容の多い文化財情報資料部の研究会ですが、今回は保存・修復がテーマということもあり部外からの参加者も多く、発表後のディスカッションではさまざまな専門の立場から意見が交わされました。

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