美術とジェンダー、この20年の歩み―文化財情報資料部研究会の開催

栃木県立美術館「揺れる女/揺らぐイメージ フェミニズムの誕生から現在まで」展チケットより

 社会的・文化的な男女の違いを意味する“ジェンダー”を視点にすえた美術史研究は、1970~80年代に英米で展開されました。日本でも90年代に美術史学会のテーマに採り上げられ、全国の美術館で展覧会が開催されるなど注目を集めました。それから20年あまりを経て、ジェンダー研究はどのような進展を遂げたのか――「日本の美術史研究・美術展におけるジェンダー視点の導入と現状」と題した小勝禮子氏による発表は、その歩みを跡づける内容でした。
 1997年に栃木県立美術館で開催された「揺れる女/揺らぐイメージ フェミニズムの誕生から現在まで」の企画者である小勝氏は、同展をきっかけのひとつとして議論の応酬がなされた、いわゆる“ジェンダー論争”の当事者でもあります。論争を通して浮かび上がったのは、現実の社会と切り離された“美術”という別世界が存在するのかどうか、という論点であり、小勝氏は今日でもそのような認識の差は美術界に広く認められるといいます。2004年から06年にかけて社会問題となった“ジェンダーフリー・バッシング”に対して、美術史研究者も交えて抗議活動が行なわれたことは、社会と美術の動きが連動したひとつの例といえるでしょう。
 発表後には、コメンテーターとして山村みどり氏(日本学術振興会特別研究員)より、米国でのジェンダー研究の現状についてご発言いただきました。また金子牧氏(カンザス大学)や水野僚子氏(日本女子大学)も出席され、とくに水野氏からは日本の古美術研究におけるジェンダー論の諸例をご紹介いただき、美術とジェンダーをめぐって多角的な意見交換が行なわれました。
 なお今回の小勝氏の発表内容は、2016年刊行の『ジェンダー史学』12号にまとめられていますのでご参照ください。

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