文化財情報資料部研究会の開催―日本画家と哲学者の意外な交流

橋本雅邦《四聖像》下絵(橋本秀邦編『雅邦草稿集』所載

 橋本雅邦(1835~1908)は、狩野芳崖とともに近代日本画の革新に努めた画家として知られています。その雅邦の筆による、これまであまり紹介されることのなかった作品について、6月27日の文化財情報資料部研究会で田中純一朗氏(井原市立田中美術館)が「橋本雅邦の人物表現―東洋大学蔵《四聖像》をめぐって」と題して発表を行ないました。
 現在、東洋大学が所蔵する《四聖像》は、ソクラテス、釈迦、孔子、カントの四聖人を掛幅に描いた、雅邦の作品の中でも大変珍しい一点です。これは同大学の創始者で明治期の哲学者である井上円了(1858~1919)の依頼によるもので、画中の四聖人を古今東西の哲学の代表者とする円了の哲学観を直接的に反映しています。長らく東京・中野の哲学堂(四聖堂)で催される哲学祭で用いられていましたが、その制作時期や経緯については、まだ不明な点もあるようです。またソクラテスやカントといった、従来の日本画にはないモティーフをについて、雅邦がどのような典拠をもとに描いたのか気になるところですが、いずれにせよ明治期の日本画家と哲学者の意外な交流をうかがわせる、ユニークな作品であることは間違いないでしょう。

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