カヌー文化研究会の開催

カヌー文化研究会の様子
海洋文化館におけるカヌー資料の調査

 平成28年度文化庁文化遺産国際協力拠点交流事業「大洋州島しょ国の文化遺産保護に関する拠点交流事業」の一環として、3月22日に本研究所で「カヌー文化研究会」を開催しました。本研究会では、本事業の相手国拠点機関である南太平洋大学(University of the South Pacific)から日本に招へいした4名の専門家(Peter Nuttall氏、Alison Newell氏、Samual London-Nuttall氏、Kaiafa Ledua氏)に研究報告をしていただきました。彼らは、風力などの再生可能エネルギーを用いた「持続可能な移動手段(sustainable transportation)」の開発において、大洋州の伝統的な航海カヌーの技術を活用する可能性を探る研究を推進する一方で、フィジーの古代カヌーの復元および実験航海にも携わっています。本研究会ではそうした彼らの取り組みについて発表していただきました。
 本研究会では日本の専門家3名からも研究報告をしていただきました。南山大学人類学研究所所長の後藤明氏からは小笠原諸島におけるハワイ式アウトリガー・カヌーについて、映像作家で無形文化遺産部客員研究員の宮澤京子氏からはカヌーに関する映像記録の方法について、海洋ジャーナリストで東京海洋大学講師の内田正洋氏からは日本におけるカヌー・カヤック文化の興隆について、それぞれ発表していただきました。そして最後に、発表者および参加者を交えての総合討論が行われました。本研究会には専門家を中心に20名あまりの参加者があり、熱のこもった議論と情報交換を行うことができました。
 本研究会の後、4名の招へい者は沖縄県を訪問し、本部町にある国営公園沖縄海洋博記念公園の海洋文化館を視察しました。海洋文化館は1975年の沖縄海洋博覧会の時に日本国政府パビリオンとして設立されたもので、当時収集された大洋州の民族資料のコレクションは世界有数の規模であり、とりわけカヌーのコレクションで著名です。ここで学芸員の板井英伸氏からの解説を受けながら、今では現地でもほとんど見ることのできないカヌー資料の調査をおこないました。また名護市内では、沖縄の伝統的木造漁船であるサバニを復元しているグループの工房を訪問する機会を得、情報交換をすることができました。
 大洋州だけでなく、日本列島を含む環太平洋地域の広い範囲には、かつてカヌーを駆るという文化が共有されていました。近代以降、こうした文化は各地で次々と消滅していきましたが、近年こうした文化を復興しようという「カヌー・ルネサンス」ともいうべき運動が各地で展開されています。それは例えばフィジーでのカヌー復元であったり、沖縄でのサバニ復元であったりします。今回の一連の事業は、こうしたカヌー文化の復興において大洋州と日本が連携できる可能性を示す、有意義なものであったと思います。

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