蒜山ガマ細工の調査

コモゲタ(台)とツチノコを使い、ヤマカゲの縄でガマを編む
ガマコシゴ、右は50年以上前に作られたもの

 令和7(2025)年2月22日、岡山県真庭市蒜山(ひるぜん)でヒメガマ(Typha domingensis)を用いたガマコシゴ(腰籠)の製作技術を調査しました。
 高度経済成長期以前、ガマは背負籠や物入れ、脚絆、雪靴、敷物など、全国各地で様々な生活用具の素材として利用されてきました。水生植物であるガマは、中空構造を持つために軽く、保温性と防水性に優れているとともに、非常に美しい光沢を持つことが特徴です。耐久性も高いことから、ガマは、藁細工などよりも高級な「よそいき」の籠や脚絆に使ったという地域もあります。
 こうしたガマ細工の多くは自家用に作られてきたこともあり、生活様式の変化や化学製品の台頭によって、全国ほとんどの地域でその製作技術は失われてしまいました。その中で蒜山では、高度経済成長期前後にガマ細工を地域の産業・工芸品として再生させることに成功させ、その製作技術が今日まで継承されてきました。昭和57(1982)年には県の郷土伝統的工芸品の指定も受け、現在では蒜山蒲細工生産振興会(会員8名)がわざの継承に取り組んでいます。
 ガマ細工は、10月頃に手刈りした1年生のガマの皮を1枚ずつ剥がし、これをヤマカゲ(和名シナノキ)の内皮で作る丈夫な縄で編んでいくことで作られます。縄は20年生程度のヤマカゲを6月末~7月(梅雨明け前)に伐採し、剝がした内皮を池や沼に4ヶ月程度つけて腐らせ、洗って乾燥させてから層ごとに薄く剥ぎ、糸のように細くい上げたものです。地元の蒜山郷土博物館に収蔵されている古いガマコシゴを見ると、ヤマカゲの縄は現在のものより緩く綯われており、工芸品として洗練されていく過程で、より細く美しい縄が追究されたことが想像されます。
 蒜山は標高500~600メートル程、12~3月まで「百日雪の下」と言われる多雪地域です。かつては素性のよいヒメガマが高原の湿地でたくさん採取できたそうですが、気候変動や獣害のためか、近年では天然の良材が育たなくなり、現在では休耕田での栽培に切り替えて材料確保に努めています。しかし質が柔らかすぎたり、色が悪くシミが出るなど、かつてのような良質な素材の確保が難しい状況が続いており、状況改善に向けた試行錯誤が続けられています。
 伝統的なわざに用いる原材料の持続的・安定的な確保は、全国的に大きな課題となっています。地域の風土に根差した素材の利用技術とその課題について、無形文化遺産部では引き続き、各地の現状調査を進めていく予定です。

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