オンラインワークショップ「スーダンの無形文化遺産とリビングヘリテージの保護」の開催

令和6(2024)年5月28日・29日にオンラインワークショップ「スーダンの無形文化遺産とリビングヘリテージの保護(“Reunion, Rehabilitation, and Revitalization” International Online Workshop for Safeguarding Intangible Cultural Heritage and Living Heritage in Sudan)」を開催しました。このワークショップは無形文化遺産部長・石村智が代表者をつとめる科学研究費事業「ポストコンフリクト国における文化多様性と平和構築実現のための文化遺産研究」の活動によるもので、東京文化財研究所無形文化遺産部が主催、英国のSSLH(Safeguarding Sudan’s Living Heritage)プロジェクトが共催、スーダン国立文物博物館局国際協力部(Department of International Relations and Organizations, National Corporation for Antiquities and Museums)が協力という体制で開催されました。
スーダンでは令和5(2023)年4月より武力紛争下にあり、首都のハルツームにある国立博物館や国立民族学博物館などは閉鎖され、文化遺産を守る専門家も国外に脱出するか、国内の比較的安全な地域に退避するかを余儀なくされています。しかしそうした困難な状況にも関わらず、スーダン人専門家たちは文化遺産を守るための活動を継続しています。例えば私たちのカウンターパートであるアマニ・ノーレルダイム氏(前・国立民族学博物館館長、現・国立文物博物館局国際協力部部長)は、スーダン国内の比較的安全な地域に退避し、その地域の博物館を拠点に文化遺産を守る活動を地域住民と協力して行ってきました。また英国のSSLHプロジェクトは、スーダン国内の比較的安全な地域の博物館を拠点に、現地のスーダン人専門家と協力しながら伝統文化の継承のための事業を開始しようとしています。
今回のオンラインワークショップでは、こうしたスーダン国内外で様々な活動を行っている専門家たちをつなぎ、情報共有を行うとともに、この困難な状況を乗り越えるための議論を行いました。その内容は以下の通りです。
趣旨説明(石村智/東京文化財研究所無形文化遺産部)
スーダンの無形文化遺産とリビングヘリテージ保護のための戦略(イスマイル・アリ・エルフィハイル氏/ハウス・オブ・ヘリテージ代表・ユネスコ専門家)
近年のユネスコ無形文化遺産保護条約の流れ(石村智)
人災への備え:21世紀の危機遺産(益田兼房氏/立命館大学)
スーダン国内外でのSSLHプロジェクトの活動(ヘレン・マリンソン、マイケル・マリンソン氏/SSLHプロジェクト)
リビングヘリテージとしてのスーダンの伝統建築(清水信宏氏/北海学園大学、石村智、関広尚世氏/京都市埋蔵文化財研究所)
戦時下における文化遺産への影響:ゲジーラ博物館の事例(アマニ・ノーレルダイム氏/国立文物博物館局国際協力部)
戦時下の世界遺産ジェベル・バルカルにおける文化遺産保護と現地住民(サミ・エルアミン氏/世界遺産ジェベル・バルカル事務所)
シーカン博物館における文化遺産保護と地域住民(アマニ・ヨーセフ・バシール氏/シーカン博物館)
総合討議(司会:インティサール・ソガイロウン氏/アラブ学研究所(カイロ)・前スーダン教育大臣、ジュリー・アンダーソン氏/大英博物館、コメンテーター:アブドルラーマン・アリ氏/ユネスコ専門家・前国立文物博物館局局長)
閉会のあいさつ(アリ・モハメド氏/在日本スーダン国大使)
参加した専門家の中には、ネット接続が難しい状況に苦労した人もいました。それでも武力紛争下という困難な状況にあっても、こうしてオンラインで多くの専門家が一堂に会することが出来たことは大きな成果でした。
スーダンは現在もなお武力紛争下にあり、私たちが現地に行って活動することは出来ません。しかしたとえスーダン国外にあっても、スーダンの文化遺産保護のためにどのような国際協力が出来るかを、これからも考え続けたいと思います。