木積の藤箕製作技術の調査

採集したフジは春彼岸すぎまで土中に埋めておく
シノダケの加工作業

 1月24日、千葉県匝瑳市木積に伝承されている藤箕製作技術(国指定無形民俗文化財)の保存継承活動について調査を行いました。
 箕は運搬や穀物の選別など生業の現場に不可欠な道具であったと同時に、祭りや年中行事等に用いられる呪具としての側面も持っており、かつては暮らしに欠かせない道具のひとつでした。その箕作りの技術は、現在3件が国指定の無形民俗文化財(民俗技術)に指定されており、そのうち匝瑳市木積ではフジとシノダケを材料にした箕作りが続けられています。軽さと丈夫さを兼ね揃え、弾力性に富んだ木積の箕は関東一円で広く用いられ、最盛期であった大正期から昭和30年代にかけては木積とその周辺で年間8万枚もの生産があったとされていますが、社会環境の変化や中国製・プラスチック製の箕の普及などによって、現在では需要が激減しています。
 この製作技術を継承するため、木積では木積箕づくり保存会を組織し、平成22年からは伝承教室を開いて後継者育成に努めています。この伝承教室は毎月開催されるもので、地元の技術伝承者の方を先生に、素材採取から加工、製作、そして地域の祭りなどでの実演販売まで、精力的に行っています。教室の生徒さんの年齢層は様々で、定年退職後に始めたという方もいれば、竹細工などを専門あるいはセミプロ的に行うかたわら箕作りを学んでいるという方、また地元で有機農業などを行なっている方など、いずれも大変熱心に活動されているのが印象的でした。また地元木積の方はもちろん、横芝光町や鴨川市などから毎月通っている方もいます。1月24日は十数名が参加し、フジとシノダケを採取した後、その処理・加工まで行いました。
 多くの民俗技術は、社会環境の変化によって、あるいはより安価で量産が可能な素材や道具、技術の普及などによって需要が減少し、技術の継承が困難な状況が続いています。もはやその技術が社会に必須のものでなくなった時、どのように価値転換をして継承の意味や方法を見出すのか、それは多くの地域で直面している課題です。
 木積の場合は、地域の外からも関心のある人を取り込んで、個々人のライフワークとして、趣味として、あるいは芸術活動の一環として、箕作りを学んでいくことのできる場所作り、雰囲気作りを行っているという印象を受けました。そこには、かつてのように稼業として否応なく箕作りに携わるのではなく、自らの意志で選びとって箕作りに関わるという、新たな関係性の在り方が見て取れます。それは、伝統的な文化の見直しや自然に寄り添った暮らしへの回帰など、価値観が多様化した現在だからこそ可能な、新しい伝承の在り方のひとつのモデルともなるもののように感じられました。

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