明願寺(新潟県上越市牧区)所蔵フィルモン調査

明願寺ご住職の池永文雄氏(右)
フィルモンのポータブル型再生機

 東京文化財研究所では、早稲田大学演劇博物館と共同でフィルモン音帯の調査を行っています。その成果の一部は、すでに2011年3月刊『無形文化遺産研究報告』第5号で公表しています。
http://www.tobunken.go.jp/~geino/pdf/kenkyu_hokoku05/kenkyu_hokoku05Ijima.pdf
 フィルモン音帯とは、戦前の日本で開発された特殊な音声記録媒体(レコード)です。当時、最も一般的に普及していたSPレコードの平均的な録音時間は約3分でした。これに対し、フィルモン音帯は30分以上の演奏でも収録が可能でした。画期的な発明品だったのですが、生産期間が昭和13年(1938)から同15年と非常に短かった上に、専用の再生機を必要としたため、戦後は急速に忘れ去られてしましました。音帯、再生機ともに現存数は決して多くありません。
 発売された音帯の種類は、約120程であっただろうと考えられています。上記報告書の時点で、現存が確認できたのは85種でした。昨年暮れ、新潟県の明願寺(上越市牧区)に多数の音帯が所蔵されているとの情報を得たことから、ご住職の池永文雄氏にご協力を請い、10月に調査を実施しました。その結果、所蔵されていた音帯は49種で、その内の16種がこれまで未発見だったものと確認されました。さらに、現存数が少ないポータブル型の再生機も動態保存されていました。所在確認調査という点からも、大きな進展であったといえます。
 明願寺所蔵の音帯は、浪曲を中心とした大衆演芸が多いところに特色があります。ご住職のお話によると、娯楽の少ない地域(現在でも最寄りのJR高田駅から車で小1時間)のため、明願寺の母屋に有線放送用の施設を作られた前住職の故池永隆勝氏(昭和12年に送信開始)が、長時間録音のフィルモンに注目し、放送用のコンテンツとして、再生機ともども大量に購入したのだそうです。当時の放送施設も、いまなお数多くが保存されていました。地方の郷土文化史を考えてゆく上でも、貴重な資料群の一つであったことになります。

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